FLARE BLUE  第四十八章


「ママはアンタには力があると言ってた。そしてオレにも。二人揃ってるのが良くないというと同時に二人揃ってるから叶う事もあるってね。ママが判らないって言う時はそうなる可能性が高いってことだから」
 ハボックは言ってロイの顎を指先で掬う。じっと見つめてくる空色を見返してロイは言った。
「私に力があると、ママ……ハウラだったか────彼女はそう言ったのか?お前と私、二人揃うと可能性があると」
「そうらしいっスよ。アンタのことはいずれ上に上がっていくだろうって言ってたっス。嬉しい?」
 その世界では有名な占い師である女性がそう言っていたと聞いてロイは眉を寄せる。首を振ってハボックの指から逃れたロイは肩を竦めて答えた。
「悪いが占いなんてものに興味はない。私が信じるのは自分の力だけだ」
 占いなどと言う不確かなものに頼らずとも自分の力を信じていると言い切るロイに、ハボックがクッと笑う。ハボックは逃れたロイを今度は体ごと引き寄せてもう一度顎を掬ってその白い顔を覗き込んだ。
「アンタのそう言うとこ好きっスよ。それで?自信家のマスタング大佐、オレのことを知ってどうするんスか?最初は知りたくないとか言ってたくせに、知ってどうするの?」
 間近からそう尋ねてくる空色にロイは息を飲む。それでも答えようと、ロイは何度か唾を飲み込んで口を開いた。
「お前のことを知って、私は────」
 知って自分はどうしたいのだろう。ロイは自問しながら間近に迫る空色を見つめる。そして。
「知ってお前を手に入れたい」
 胸に沸き上がる欲求のままにロイは言葉を唇に乗せた。


「また逃げられたのかッ!」
 杖男は男たちを前にダンダンと足を踏み鳴らして怒鳴る。腹立ち紛れに目の前の男の顔を杖で殴った。
「判ってるのかッ?もう時間がないんだぞッ!」
「うるせぇッ!そんな事言われんでも判ってるッ!!」
「判ってるならさっさと取り返してきたらどうなんだッ、この役立たずッッ!!」
「な……ッッ」
 思い切り罵倒されて大男の顔色が変わる。怒りに醜い顔を赤黒く染めると手を伸ばして杖男の襟首を掴んだ。そのままグイと引き上げれば爪先が床から浮いて、杖男はじたばたともがいた。
「黙って聞いてりゃ勝手なこと言いやがって。そもそもお前が陣を発動させられなかったのが原因だろうッ?お前がヘボなんだッ、お前がッ!」
「んだと……ッ」
 グイグイと襟首を締められて、杖男は言い返したくともまともに息が継げない。それでも掠れた声でブツブツと何かを唱えれば、手にした杖から迸った焔に髪を焼かれて、大男は悲鳴を上げて杖男を離した。
「こっ、この野郎ッ!ぶっ殺───、ッ?!」
 怒鳴りかけた大男が喉をかきむしってうずくまる。杖男はフンと鼻を鳴らして、乱れた服を直した。
「パワーしか取り柄のない間抜けが!人のことを四の五の言う前に言われたことだけしっかりやれ!」
 そう罵られて大男が悔しそうに杖男を睨む。杖男は嘲るように大男を見下ろして言った。
「なんだ、文句があるのか?悔しかったらとっととマスタングからブレスレットを取り返してこい!」
 喚く杖男に大男は低く呻く。それでも今度はなにも言い返さず立ち上がると、他の男たちを引き連れて部屋を出ていった。


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