FLARE BLUE  第四十六章


「お待たせ」
 少し待っていればミラが料理の皿を運んでくる。湯気を上げる大きな皿をドンとテーブルに置いてミラはにっこりと笑った。
「まだまだ持ってくるからどんどん食べてね」
「あ、ああ。ありがとう」
 そう言って置かれた皿は山盛りだ。サラダとチキンのトマト煮と白身魚のフリッターと、既に二人分としては十二分の量なのにまだこれ以上持ってくるのだろうかと思っていれば、ハボックがチキンに手を伸ばしながら言った。
「ミラぁ、スープも欲しい。あとあれ食べたい、マッシュルームのアヒージョ。あ、エビも入れてね」
「アンタね、アンタが食べたいものじゃなくてこの人が食べたいものを聞いてあげなさいよ」
 さっさと自分が食べたいものをリクエストするハボックにミラが鼻に皺を寄せて言う。ミラはロイを見て言った。
「スープ、何がいいかしら。カボチャでもコーンでも、珍しいところだと牛蒡なんかもあるけど」
「ええと……、じゃあその牛蒡で」
「エビは食べられる?アヒージョ、嫌いじゃない?」
 聞かれてロイはコクコクと頷く。そんなロイにミラは笑って「待ってて」と言うと、奥へと引っ込んだ。
「ほらほら、どんどん食べて。このサラダのドレッシング、ミラのオリジナルなんスよ。すっげぇ旨いから」
 ハボックはそう言いながらサラダを取り分ける。チキンとフリッターもモリモリ盛られた皿を目の前に置かれて、ロイはハボックを見た。
「凄い量だな」
「そうっスか?こんなの普通っしょ?」
 この量を見ただけでロイなど胸がいっぱいになってしまうが、ハボックはそうではないらしい。それでもいい匂いに誘われてチキンを口にしたロイは目を瞠った。
「旨い」
「でしょう?ミラの料理はイーストシティ一で一番っスから」
「このドレッシングもいいな。さっぱりして、食欲をそそる」
 サラダにも手を伸ばしてロイが言う。腹を空かしてここに来たことを思い出して、ロイは次々と料理を口に運んだ。
「旨いな、このトマト煮。皿まで舐めたくなる」
「ミラ〜っ、バゲットちょうだい!」
 ロイが言うのを聞いて、ハボックが声を上げる。籠に入れたスライスしたバゲットとアヒージョを手にミラが出てきて言った。
「アヒージョと一緒に持ってこようと思ってたのよ。ふふ、トマト煮、気に入って貰えて良かったわ」
 バゲットにチキンを煮込んだトマトソースをつけて食べるロイを見てミラが笑う。
「とても美味しいよ。思わず皿を舐めそうになってしまった」
 そんな風に言われてミラは嬉しそうに笑うとキッチンに引っ込んだ。
「このアヒージョもバゲットにつけて食うと旨いっスよ」
 どうぞと皿を押し出されて、ロイは勧められるままバゲットにつけて食べる。ニンニクの香りが移ったオイルはとても美味しく、ロイはバゲットにエビとマッシュルームも乗せて頬張った。
「いいな、このアヒージョ。幾らでもイケる」
 そう言ってモグモグと口を動かすロイを見てハボックは薬と笑う。
「アンタ、飯食ってる時ってホント幸せそうっスね」
「旨いものを食っている時は誰だって幸せだろう?」
 何を当然の事を、と言う合間にもロイは自分の皿に料理を取る。そんなロイを見つめていたハボックはロイの頬に手を伸ばした。
「ついてるっスよ」
「ッ!」
 ハボックは言って頬に着いたソースを指で拭う。その指をハボックがぺろりと舐めるのを見て、ロイは顔を赤らめた。
「きっ、気づいてたさ!飲み込んだら拭こうと思ってたんだっ」
「ふぅん。あ、ほら。ここにも」
「えっ?」
 ニヤリと笑って手を伸ばしてくるハボックに、ロイは慌てて頬に手をやる。だが、ハボックは頬ではなくロイの唇に手を伸ばした。
「ほら、ここ」
 そう言ってロイの唇についたオイルソースを指で拭う。その指をパクリと咥えてハボックは言った。
「ん。やっぱ旨い」
「さっ、皿からとればいいだろうッッ!」
 咥えた指を旨そうに舐るハボックにロイは真っ赤になって言う。
「皿から取るより絶対こっちの方が旨いっしょ」
「馬鹿か、お前はッ!」
 ニヤリと笑って指を舐める男に、耳まで真っ赤になったロイはそっぽを向いてゴクゴクとビールを飲み干した。


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