FLARE BLUE  第四十四章


「なんスか?鬼ごっこの最中?」
「ハボック!」
 いきなり目の前に停まった車にギクリと身を強張らせれば、運転席の窓から顔を出して面白がるように言う男にロイは目を瞠る。ロイはキッと目を吊り上げてハボックの耳を思い切り抓った。
「遅いッ!貴様が遅いからだぞッ!」
「痛い痛い痛いッ!耳が千切れるッ!」
 思い切り耳を抓り上げられてハボックが悲鳴を上げる。その声に多少なりと溜飲が下がって、ロイは助手席に回るとドアを開けて車に乗り込んだ。
「アンタ、可愛い顔してホント容赦ないっスね」
 痛みにうっすらと涙を浮かべてハボックがぼやく。千切れるかと思ったと耳をさするハボックに、ロイはフンと鼻を鳴らして言った。
「お前がさっさと来ないから悪い」
「んなこと言ったってこの辺道狭いしー、エリーゼちゃんに傷つけたくないしー」
 間延びした声にロイがもう一度手を伸ばせばハボックが慌てて耳を押さえる。
「お待たせしてすんませんっ」
「判ったならさっさと車を出せ」
「アイ、サー!」
 ギロリと睨む黒曜石にハボックが答えてアクセルを踏む。その時、バタバタと走る音と怒声が聞こえてきた。
「あそこだッ!」
「待てェッ!!」
 怒鳴ると同時に男たちが二人が乗る車に向かって発砲する。弾丸は男たちの姿を見たハボックがアクセルを踏んで走り出した車のいた場所を通過して壁に当たった。
「危ねぇッ!エリーゼちゃんに傷がつくとこッ!」
 ガンガンッと背後に鳴り響く銃声の音を聞いてハボックが喚く。助手席に座ったロイが背後を振り向いて言った。
「奴ら、こっちを狙ってるぞ」
「冗談ッしょ!」
 通りに出た男たちが二人が乗る車に向かって銃を構えるのを見てロイが言う。ハボックは顔をひきつらせて喚くと同時にハンドルを切って手近の角を曲がった。
「おお、間一髪」
 急なハンドル捌きに体を振られながらロイが言う。ハボックはアクセルを踏み込み猛スピードで男たちから逃げながら言った。
「もう!デートは二人きりにしてくださいよ!」
「お前なら大勢も楽しいとか言うんじゃないのか?」
「ガキのグループ交際じゃねぇんスから」
 ニヤリと笑って言うロイにハボックは大きなため息をついて言う。猛スピードで幾つも角を曲がって流石にもういいだろうとスピードを落とすと、ハボックはロイを見た。
「怪我は?大丈夫っスか?」
「────ああ」
 まさか心配してくれるとは思わず、一瞬目を瞠ってロイは頷く。それなら良かったと笑って視線を正面に戻して、ハボックは言った。
「さて、どこに行きますかね?」
「まだどこかに行くつもりなのか?」
 こんな風に襲われたのだ。幾ら何でもデートは中止で司令部に戻るのが筋だろうと言うロイにハボックが言った。
「まあ別に、アンタが司令部帰るって言うなら送っていきますけども」
 と、ハボックはロイを見る。
「いいんスか?それで」
 うっすらと笑みを浮かべて言う空色にロイはゾクリと背を震わせた。
「────いや、折角だ。エリーゼでどこかに連れていってくれ」
「そうこなくっちゃ」
 ロイの言葉にハボックが面白がるような光を空色の瞳にたたえてアクセルを踏み込む。徐々にスピードを上げる車の微かな振動に身を預けて、ロイはハボックの顔をそっと見つめた。


「クソッ!またあの男だッ!」
「車だッ!車を回せッ!」
 猛スピードで走り去る車に向けて発砲したものの、あっと言う間に逃げられてしまって男たちは地団駄を踏む。大男は近くに積み上げてあった木箱を思い切り蹴り崩した。
「くっそうッ!また逃げられたとあっちゃ何言われるか……ッ!追うぞッ!絶対に捕まえてブツを取り返すんだッ!」
 怒りに顔を歪めて、男たちは二人を追うためにその場を後にした。


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