FLARE BLUE  第四十二章


「コンラッドが持ち出したものはまだ取り返せないのかッ!」
 苛々と部屋の中を歩き回りながら杖を持った男が怒鳴る。神経質なその声を聞いて、熊のような大男が答えた。
「そう簡単に言うな、ブレスレットを持っているのはあの焔の錬金術師なんだぞ」
「だからどうだと言うのだ。あやつの焔なぞ私の焔に比べたらマッチの火ほども威力がない。恐れる必要などない!」
 胸を仰け反らせ偉そうに杖男が言う。自信満々そう言う杖男に大男は嘲るようにフンと鼻を鳴らした。
「そんなことを言ってこの間まんまと逃げられたのはどいつだ?下手な鉄砲ほども当たらなかったじゃねぇか」
「ッ!あれは場所が狭くて障害物が多かったからだッ!」
「なんとでも言い訳してろ。それに焔の錬金術師だけじゃねぇ、一緒にいたあの男」
 ムキになって喚く杖男の様子にとりあえず満足した大男が言う。ブレスレットを持つ男の情報を得て取り戻そうと襲えば、相見えた男を思い出して顔を歪める大男に杖男は言った。
「フン、あんなもの、それこそ恐れるに足らん」
 怖じ気た様子の大男を嘲るように言って、杖男は顔を歪めて笑う。杖を一振りして大男に向けて突き出すと言った。
「次は我が焔の餌食にしてくれるわ」
「そうかよ、だったらさっさとあの二人を何とかして例のものを取り戻してくれ」
「あれを取り戻すのはお前の仕事だろうッ」
 互いに押しつけあうようにして言い合って二人は睨み合う。暫くの間そうしていたが、先に息を吐き出して目を逸らしたのは杖男のほうだった。
「こんなところでいがみ合ってる場合じゃない。一刻も早く取り戻さんと折角ここまで来たというのに」
 ギリギリと歯を食いしばって杖男が言う。苛立たしげにコツコツと杖を床に打ちつけて言った。
「裏切り者のコンラッドを生け贄に陣を発動させてみたがうまく行かなかった。やはりあれがないと我らの大願は果たせん」
「確かにな」
 杖男が言うとおり例のものを取り戻さない限り先には進めないと大男が唸る。
「攻めるなら焔の錬金術師の方だろう。もう一刻の猶予もない」
「それならば即刻行動を起こすぞ」
 杖男の言葉に頷いて扉に向かう大男に、杖男も杖を握り直してした。
「見ていろ、焔の錬金術師め。余計なことをするとどうなるのか思い知らせてやる」
 同じように焔を操る相手にライバル心を剥き出しにして呟くと、杖男は大男を追って部屋を出た。


「なんだ?提案というのは」
 陣を描くまでに三日もかかると聞いてそんなに待てないと言えば、提案に乗るかと楽しげに言うハボックにロイは尋ねる。そうすれば、ハボックはプカリと煙草の煙を吐き出して言った。
「オレとデートしません?エリーゼちゃんに乗って」
「────は?」
 一体どんな提案だろうと身構えてその言葉を待っていたロイは、ハボックが言うのを聞いて間の抜けた声を出す。ポカンとして見つめてくる黒曜石に笑みを浮かべて、ハボックはロイの顎を掬った。
「どうせ暫くやることないし、だったらデートしましょうよ」
 そう言って唇を寄せてくる男をポカンとして見上げていたロイは、唇が触れる寸前ハッとしてハボックの体を押し返す。キッとハボックを睨んでロイは言った。
「提案っていうから聞いてやればなにがデートだッ!なんで私がお前とデートなんぞしなければならんのだッッ!!」
 真面目にその言葉を待っていただけにロイはカッカとして言う。そんなロイの剣幕も全く気にした風もなくハボックは答えた。
「まあ、オレとしちゃ最近アンタの仕事以外受けてねぇから、他の仕事やっても構わないんスけどね。折角時間があることだから、互いを知るいい機会だと思ったんスけど」
「別にお前のことなぞ知りたくもない」
「へぇ?」
 きっぱりと言うロイにハボックは面白そうに片眉を跳ね上げる。ズイとロイに身を寄せ間近から顔を覗き込んで尋ねた。
「本当に?オレのこと知りたくない?」
「ッ!」
 そう囁くハボックの空色の瞳がキラリと光る。その妖しい輝きにゾクリと身を震わせるロイに、ハボックはクスリと笑って身を引いた。
「まあ別に必要ないっていうならそれでもいいんスけど。むしろ中尉さんには余計なことするなって言われずにすむだろうし。じゃあオレはボインのオネエチャンから依頼が来たの、断わっちまったけどやっぱり受ける事にするかな……。んじゃ三日したら司令部行きますんで、書類頑張って片づけてくださいね」
 ハボックはそう言ってスツールから立ち上がる。咥えていた煙草を灰皿に押しつけて立ち去ろうとするハボックの腕を、ロイは咄嗟に掴んだ。
「待て。付き合ってやらんこともない」
「はい?」
「つきあってやると言ってるんだッ」
 何となくハボックが女性の依頼を受けるのが気に入らない。それになにより三日も書類仕事など真っ平だ。内心そんなことを思いながら見上げるロイの心を見透かすようにハボックがニヤリと笑う。
「いいっスよ。じゃあエリーゼちゃんとってくるんで、ちょっと待ってて下さい」
「そのままフケるなよ」
 そう言われて軽く目を瞠ったハボックはクスクスと笑ってロイの頬に盛大な音を立ててキスをした。
「すぐ戻るんで待っててください」
「とっとと行ってこい!」
 キスされた頬を真っ赤になって手で押さえながら言うロイに笑って、ハボックは店を出ていった。


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