FLARE BLUE  第四十章


「んー、旨い!このトロトロ感、最高ッ!」
 ミラが手早く作ったオムレツを頬張りながら、ハボックが満足げなため息をつく。熱々のオムレツをハフハフと息を吐いて食べるハボックを腕を組み壁に凭れて見ていたミラが心配そうに言った。
「ちゃんとご飯食べてるの?アンタ、ちっとも顔出さないし」
「だってミラ怒ってたじゃん」
「本気で怒ってたら叩き出してるわよ」
 店に入れてオムレツまで作ってやったのだ。不機嫌は見せかけだけと判っているのにそんな事を言うハボックをミラが睨めば、ハボックが答えた。
「食ってるよ。店はここだけじゃないんだから」
「どうせここより美味しい店は幾らでもあるでしょうよ」
 フンッと鼻を鳴らすミラにハボックは苦笑する。ごちそうさまとスプーンを置くと、懐から煙草を取り出し火をつけて大きく吸い込んだ。
「ふぅ」
「ちょっと!お皿を灰皿代わりにしたら殴るわよ」
「灰皿ないのぉ?この店」
「生憎まだ準備中なの!」
 店の用意が悪いような事を言うハボックの目の前に、ミラがドンッと灰皿を置く。「サンキュー」とハボックが煙草の灰を灰皿に落とした時、入口の垂れ幕が上がって黒髪の女が中に入ってきた。
「おかえりなさい、ママ」
「ただいま。────おや、珍しい」
 ミラに答えた女は、テーブルについて煙草を吸っているハボックに気づいて言う。ハボックは椅子の背を抱えるように振り向いて言った。
「お久しぶり。ママ・ハウラ」
 煙草を灰皿に押しつけて、ハボックは立ち上がると近づいてきたハウラを抱き締める。ハウラは長身の背をギュッと抱き返してハボックを見上げた。
「元気そうね」
「ママもね。相変わらず綺麗」
「ふふ……」
 褒め言葉にハウラは照れた様子もなく笑みを浮かべる。ハウラは椅子に腰を下ろすと、ハボックの腕を引いて隣に座らせた。
「アンタがこんな真っ昼間から来るなんて珍しい。相談ごとはなに?子供でも出来た?」
「ひでぇなぁ。オレ、女の子はちゃんと大事にしてるっスよ?」
 ハウラの言葉にハボックは眉を下げて言う。見つめてくる黒い瞳を見返してハボックは尋ねた。
「ママ、ゲーティアって知ってる?」
「ああ、あの悪魔崇拝の連中ね」
「────やっぱ知ってるんだ……。ちぇっ、最初っからここに来ればよかった」
 いとも簡単に答えが返ってきて、ハボックはぐったりと椅子に背を預ける。そんなハボックをハウラは見つめて言った。
「関わらない方がいいと言いたいけど、わざわざ聞きに来るということはもう既に遅いわね。どうしたの?アンタが今一緒にいるっていう軍人と関係があるの?」
「ママ、ジャンってばマスタング大佐と一緒にいるのよ」
 ハボックが口を開くより早く、ミラが横から言う。あらまあと言う顔をするハウラにハボックが言った。
「別に好きでこうなったってわけじゃないって言うか、成り行きって言うか」
 もごもごと言い訳のような言葉を口にするハボックをハウラは何も言わずに見つめる。ハボックは「うーん」と唸って頭をガリガリと掻いた。
「あのさぁ、ママ。北地区の倉庫街で未完成の召還の陣の中で男が死んでたんだよ。マスタング大佐はその事件を追ってる」
「ジャン」
「だってもう関わっちまったもん」
 諫めるような響きを乗せた声にハボックが言う。
「大佐は一体何が起きたか確かめるために陣を完成させたいって言うんだ。でもそのゲーティアってとこの連中が邪魔してきて」
「そりゃあそうでしょうよ。万一自分たち以外の誰かに召還されたら困るもの」
「ママは来ると思うの?」
 陣を完成させたら、と尋ねてくる空色にハウラは肩を竦めた。
「ゲーティアの連中には無理ね。力がない。でもアンタとマスタング大佐なら判らないわ」
「オレ?」
「と、マスタング大佐」
 眉を顰めるハボックの言葉にハウラは付け足す。
「二人揃ってるのが良くない。彼には力があるわ、アンタにも。やめた方がいい」
「でも、大佐はやめる気ねぇんスけど。つか、ママ、大佐のこと知ってんの?」
 きっぱりと断言する言葉にハボックが首を傾げればハウラが答えた。
「感じるもの。彼の力は強い。何れマスタング大佐は上へと上がっていくでしょう」
「────それ、占い?()えたの?」
 その世界ではよく知られた占い師の女は黙ったまま笑みを浮かべる。ウーッと唸るハボックに、ハウラは懐から小さな石を取り出して差し出した。
「これを持って行きなさい。三日後の新月の夜。その日を逃したらやめた方がいい」
「……ありがとう、ママ」
 ハボックは淡い光を放つ石を受け取り掌で握り締める。笑って立ち上がり、ハウラの頬に口づけると足早に出ていった。
「よかったの?ママ」
 二人のやりとりを聞いていたミラがハボックが出ていった店の入口を見つめて言う。
「いいのよ。これでいいの」
 ハウラは言って、目を細めて笑った。


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