| FLARE BLUE 第三十九章 |
| 「さあて、と……大きな事言って出て来ちゃったけどどうすっかな……」 ハボックは煙草を咥えた唇の隙間からそう呟きながら司令部の廊下を歩いていく。私服姿の自分を不思議そうに見遣る女性職員に軽く手を振って、ハボックは正面玄関から外へと出た。 「いっそこのままフケっちゃおうか……」 背後に建つ司令部の建物を見上げてハボックは言う。だが、そう口にした途端ホークアイの冷たい鳶色に睨まれた気がして、ハボックはゾッと背を震わせた。 「冗談ですってば、もう……」 ハボックは頭をボリボリと掻いてぼやく。ポケットに手を突っ込むとハボックはゆっくりと歩きだした。 「悪魔崇拝のオカルト集団に大勢の信者ごと燃やされた悪魔を崇める教会、か……。確かに今は科学の時代だけど、でもね────世の中にゃ科学じゃ割り切れないもんもあるんスよ、大佐」 そう言うハボックの空色の瞳がスッと細められる。ハボックは短くなった煙草を投げ捨て、足早に歩いていった。 「こんちはー」 ハボックはゴチャゴチャと小さな店が建ち並ぶ通りの中の、一軒の店の扉代わりの垂れ布をまくり上げて中へと入る。夜になれば飲み屋になるのであろう店内は、昼の光の中ひどくうらぶれて見えた。その店の奥からハボックに向かってジャガイモが飛んでくる。首をヒョイと動かしてよけたハボックは次々と飛んでくる野菜の爆弾を苦笑しながらも軽々とよけた。最後に飛んできた包丁はテーブルの上に置きっぱなしになっていたトレイを掴んで盾にする。ビィンとトレイに刺さった包丁が音を立てて震えるのを見て、ハボックはやれやれとため息をついた。 「こんなもん投げたら危ないっしょ」 死ぬから、と言うハボックに答えるように店の奥から背の高い女が姿を現す。背中までの金髪を波立たせ、豊かな胸の前で腕を組んだ女は、緑色の瞳でハボックを睨んだ。 「死ねばよかったのに」 そんな風に言われて、ハボックは苦笑しながらも女に近づく。女はハボックが持ったトレイから包丁を引き抜いてハボックの喉元に刃を押し当てた。 「ミラ」 「よくも顔を出せたわね」 「だからあれは誤解だって」 急所に包丁を押し当てられているにも関わらずまるで気にした風もなく言うハボックを、ミラは睨みつける。ハボックはミラの腰をグイと引き寄せ、間近から緑の瞳を見つめて言った。 「元気してた?」 「見れば判るでしょ」 「相変わらずだなぁ、ミラ」 クスリと笑ってハボックはムッと引き結んだミラの唇に口づける。強請るように唇を舐めれば薄く開いた紅い唇の間に舌をねじ込んで、ハボックは深く唇を合わせた。そんなハボックの首にミラは包丁を握ったままの手を回して引き寄せる。互いにきつく抱き締めあい深いキスを交わして、二人は唇を離した。 「知ってるのよ。アンタ、最近軍人と連んでるでしょ」 「流石耳が早いなぁ」 ミラの言葉にハボックは笑みを浮かべる。 「なら話が早いや。ママは?いる?」 「今出かけてるわ」 尋ねるハボックにミラは答えて離れると、厨房に入り持っていた包丁を包丁立てに戻した。棚から二つグラスを取り出して氷とウィスキーを注ぐ。差し出されたグラスを受け取ってハボックが言った。 「真っ昼間なのに」 「ここは飲み屋なの。お金払ってよね」 「水でよかったんスけど」 しっかり代金を要求するミラに、ハボックが眉を下げる。それでもグラスに口を寄せるハボックを見つめて、ミラが言った。 「うまくやってるの?まさか弱みを握られてるんじゃ──」 「そんなんじゃないよ。あの人はそんなんじゃない」 ハボックはカランとグラスの氷を鳴らして答える。じっと見つめてくる視線を感じて、ハボックは笑みを浮かべた。 「マスタング大佐って知ってる?」 「マスタング……?焔の錬金術師の?──って、最近一緒にいる軍人ってマスタング大佐なの?どうしてアンタがそんな人と一緒にいるのよ」 ハボックが軍人と行動を共にしていることは知っていても、その相手が誰かまでは知らなかったらしいミラが驚きに目を瞠る。ハボックは手の中のグラスを回しながら店の天井を見上げて答えた。 「んー、たまたま?」 「なによ、それ」 返る答えが気に入らないようにミラはハボックを睨む。それでも、ちびちびとグラスに口を付けるハボックを見て小さくため息をつくと、ミラは言った。 「もうすぐ帰ってくるから。──何か食べる?」 「また金とんの?」 「──とらないわよ。つか、アンタ、儲けてんでしょ」 「そうでもないって」 半ば呆れたように言うミラにハボックは答える。 「ねー、ミラのオムレツが食べたーい」 甘えるように言って見つめてくる空色に。 「仕方ない子ね」 ミラはため息をつくとフライパンを取り出した。 |
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