| FLARE BLUE 第三十八章 |
| 「失礼します」 ノックに答えればホークアイが扉を開けて入ってくる。ロイの机に片手をついて立っているハボックをジロリと見たホークアイは、手に持っていた数枚の書類をロイに差し出した。 「あの工場がある場所に以前あったものが何か判りました」 「仕事が速いっスね、中尉さん、流石!」 「おい」 「ちょっと、貴方!」 ホークアイが差し出した書類を横合いから奪い取るハボックにロイが抗議の声を上げ、ホークアイが目を吊り上げる。だが、そんな二人に構わずハボックは手にした書類にサッと目を通した。 「へぇ」 「何があったんだ?寄越せ!」 書類を読んだハボックがスッと目を細めるのを見て、ロイは手を伸ばして書類を奪い返す。報告書に書かれたものを読んで、ロイは眉を顰めた。 「いよいよ怪しくなってきたっスね。やめるなら今のうちっスよ」 そう言う声にロイは書類から視線を上げてハボックを見る。面白がるような光を湛えた空色を見て、ロイは眉間の皺を深めた。 「どうしてやめなきゃいけないんだ」 「どうしてって報告書、読んだんでしょ?」 「読んだとも。あの工場は以前教会が建っていた跡地に建設されたものだ」 ロイはたった今報告書を読んで知った事を口にする。 「だからってどうしてやめなきゃならないんだ」 言って挑むように見つめてくる黒曜石にハボックはクスリと笑った。 「その教会が信奉していたのが悪魔で、その為に大勢の信者が教会ごと燃やされ埋められたとしても?」 「関係ないな」 ロイはきっぱりと言ってハボックを見る。 「過去にあの地でなにが起こっていようと何を恐れる必要がある?そもそも今は科学の世の中だぞ。それに私には事件の真相を明らかにして犯人を捕まえる義務がある。その為に必要なことなら何でもやるさ」 そう言うロイの瞳に宿る意志の強さにハボックはニヤリと笑ってホークアイを見た。 「で?中尉さんは?それでいいの?」 言ってプカリと煙を吐き出すハボックをホークアイは鳶色の瞳で睨む。一つ息を吐き出して答えた。 「止めて聞くような人なら止めているわ。こうと決めたら絶対にそうする人だもの。それなら私に出来るのは大佐が安全に彼の思う事を実行出来るようサポートするだけ」 ホークアイはハボックを真っ直ぐに見て続ける。 「だから今回は貴方にキリキリ働いて貰うわ。大佐の髪の毛一本傷つけても赦さないわよ」 「えっ?!やだな、出来る限りのサポートするなら自分でしましょうよ」 赦さないと言いながらホルダーから銃を抜くホークアイに、ハボックが情けなく眉を下げる。それでも黒曜石と鳶色、二つの瞳に見つめられてハボックはやれやれとため息をついた。 「まあ、仕方ないっスね。便利屋としては貰った代金に見合うだけの働きはしましょう」 そう言ってハボックは「んー」と考え込むように唸りながら頭を掻く。 「少し時間を下さい。途中で邪魔が入らないようにしたいし」 「ああ。この間のようにアイツらに邪魔されるのだけは避けたいからな」 「判ってますって」 ハボックは頷いて咥えていた煙草を灰皿に押しつける。 「じゃあ、準備が出来たら連絡するんで」 「急げよ」 「────人使い荒いっスね。料金足りないんじゃねぇ?」 急かす言葉にハボックが肩を落として言えば、ロイが椅子から立ち上がった。 「大佐?」 「それなら追加料金を払ってやる」 そう言うなりロイは手を伸ばしてハボックの胸倉を掴む。グイと引き寄せると唇を合わせた。 「ん……」 深く唇を合わせ舌を差し込む。答えてくるハボックの舌先に残る煙草の苦みに眉をしかめながら、ロイはきつく舌を絡めた。 「────どうだ」 挑むように見つめてくる黒曜石にハボックはクッと笑う。 「そうっスね。まあ、負けておきましょう」 ハボックは言って唇に残る唾液を指先で拭うと、「じゃあ」と言って執務室を出ていった。その背を見送ってホッと息を吐き出したロイは、頬に視線を感じて横を見る。そうすれば呆れたように見つめてくるホークアイと目があって、ロイは顔を赤らめた。 「あっ、いや、これはだなッ!アイツがぐちゃぐちゃ煩いからッ」 「別になにで支払おうと軍の予算に響かない限り私は構いませんが」 慌てて言い訳するロイの言葉をホークアイは冷たく遮る。 「彼が戻ってくるまでの間ボーッと待っていても仕方ありません。一枚でも多く書類を片づけて下さい」 そう言ってドサリとファイルの山を机の真ん中に置かれて。 「わ、判った」 顔を引きつらせて答えるロイだった。 |
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