| FLARE BLUE 第三十六章 |
| 「────頼むから中尉を怒らせるような真似はやめろ」 「別に怒らせるつもりはないっスよ。つか、なんであの人、あんなに気が短いんスか?」 「お前、それ、中尉の前で絶対に言うなよ」 訳が判らんという顔をするハボックにロイはため息混じりに言う。やれやれと腰を下ろして、ロイは改めて書類に目を通した。 「ゲーティアってどっかで聞いたことがあるんスけど」 「小さな鍵だな」 「へ?小さな鍵?」 唐突なロイの言葉にハボックが目を丸くする。机に手をついて身を乗り出すようにして書類を覗き込んでいたハボックを見上げて、ロイが言った。 「遠いとおい昔、ある国に一人の王がいた。王の即位後その国は国の歴史上最も栄え、彼は名君と讃えられたんだが彼にはもう一つ別の言い伝えがあってな。それは彼が魔術師であり、国の繁栄は呼び寄せた悪魔を使役して行わせたというものだ。彼が呼び出せる事が出来た悪魔の数は七十二、その方法を記したのが王の小さな鍵、ゲーティアだよ」 「悪魔を呼び出す……じゃあ、あの陣は悪魔を呼び出す為に使われたって事っスか?」 「アイツらがゲーティアと名乗ってるならあるいは、な」 そう言うロイをハボックは間近からじっと見つめる。綺麗な空色に間近から覗き込まれてドキリとしたロイが紅い顔で見返せば、近づいてきた唇がチュッとキスを落とした。 「なっ、なにをするッッ!!」 「いやあ、可愛いなぁと思って」 カアアッッと顔を赤らめてバッと身を引くロイに、ハボックがハハハと笑う。首まで真っ赤になったロイに睨まれて、全く悪びれた様子のない男は言った。 「悪魔ね……。アンタは悪魔って信じるっスか?」 「私は錬金術師だぞ。そんな非科学的なものを信じるわけないだろう?」 「でも、コンラッドはもの凄い死に様で死んでたんでしょ?それでも?」 そう言われてロイの頭の中に陣の中に横たわるコンラッドの姿が浮かぶ。信じられない方向に折れ曲がりねじ切られて血の海の中で死んでいたコンラッドを思い出して、ロイは眉間に皺を寄せた。 「ねぇ、大佐」 考え込むように口元に手を当てていたロイをハボックが呼ぶ。なんだと尋ねるように見上げれば、ハボックが言った。 「あの陣、あそこで完成させちゃいましょう」 「何か安全に描ける方法を思いついたのか?」 陣を完成させることを良しとしないホークアイを納得させようと、安全に陣を描く方法を考える事をハボックに押しつけたが何か思いついたのだろうか。そう思って尋ねればハボックが答えた。 「アイツら、ゲーティアって言うんでしょ?悪魔崇拝の集団」 「ああ」 「だったら陣を描く目的は悪魔を呼び出す事っスよね?」 そう言えばロイが不満げに眉を寄せるのを見てハボックが苦笑する。 「アンタが悪魔なんて信じない科学者ってのは判ってるっスけど、それはこの際置いといて」 「────判った。それで?」 確かに今ここで悪魔なぞいないと言ってしまったら話が進まなくなってしまう。仕方なくそこは譲って先を促すロイにハボックが言った。 「だったらあそこで陣を完成させれば大丈夫っスよ」 にっこりと笑って言うハボックをロイは眉を顰めて見上げる。 「待て。どうして“だったら”に繋がるのか判らんぞ。間を省くな」 幾ら頭の回転が早いロイと言えど、この説明では流石に判らない。ちゃんと話せと要求するロイに、ハボックは懐から煙草を取り出して咥えた。 「コンラッドがあそこまでグチョグチョにされちゃったのは、きっとあの陣を使って呼び出した悪魔を制御仕切れなかったからっスよ」 と、ハボックは手にした紙を振る。 「これ、多分悪魔の力を制御するオマジナイっスね。そしてあの場所はおそらく呼び出した悪魔に由来した場所。だったらあの場所でこの文字をちゃんと入れて陣を完成させんのが一番安全ってことっスよ」 そう言うハボックの手からロイは紙を取り上げる。睨むように紙に記された文字を見つめるロイにハボックは言った。 「で?悪魔呼び出してどうします?」 「えっ?」 「陣、完成させるんでしょ?悪魔がやってくるっスよ?なにを願うんスか、大佐……?」 低く囁くハボックの瞳がキラリと光る。その空色に吸い込まれるような錯覚を覚えたロイがヒクリと喉を鳴らして見つめれば、ハボックがククッと笑った。 「冗談っスよ。科学者のくせになんて顔してんスか」 「な……お前……ッ」 クックッと笑うハボックをロイは顔を赤らめて睨む。ハボックは手を伸ばすと、紅く染まったロイの頬を撫でた。 「――――お前……何者なんだ?」 「オレはしがない何でも屋っスよ」 ロイの問いにハボックは笑って答える。ロイの唇にチュッとキスを落としてハボックは言った。 「まあ、とにかく中尉さんの報告を待ちましょう。話はそれからっスよ」 笑ってそう言うと、ハボックは短くなった煙草を灰皿に押しつける。新しく取り出した煙草を咥えるハボックの横顔をロイはじっと見つめた。 |
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