FLARE BLUE  第三十五章


「大佐ぁ、調子はどうっスか?」
 ノックもなしに開いた扉から顔を出した男をロイはジロリと睨む。ロイが答える前に(うずたか)く積まれた書類を見て、ハボックはため息をついた。
「これ、少しは減ってんですか?」
「これでも二山減らしたんだ」
「マジ?どんだけ溜めてたんスか、アンタ。そりゃあ中尉さんに睨まれますって」
 ホークアイが怒るのも無理ないと呆れたように言われてもロイには返す言葉がない。ムッと黙り込んで書類にサインするロイの机に腰を引っかけて、ハボックはサインする手元を見ながら言った。
「そんだけ手早く処理が出来るなら、普段からちゃっちゃとやればいいのに。そしたら中尉さんにも睨まれないっしょ?」
「う……」
 ため息混じりに言われて、ロイは低く唸る。余計なお世話だとでも言いたげに睨んでくる黒曜石にハボックは笑った。
「まあ、そんなことは普段からしょっちゅう言われてんでしょうけど」
「煩いな。それより何か判ったのか?」
「アンタらだって今までかかって判ってないんでしょ?簡単に言わんで下さいよ」
「私たちは色々他にもやりながら事件の捜査もしてるんだ。お気軽何でも屋のお前と比べるな」
「そうっスよねぇ、毎日こんな書類の山と睨めっこっスもんねぇ」
 山の一番てっぺんの書類をめくりながら言うハボックに、ロイはペーパーウェイトを投げつける。見事な反射神経で投げつけられた丸いガラスのウェイトを受け止めて、ハボックは言った。
「ねぇ、この陣っスけど、やっぱりあそこに描くことに意味があるんじゃないんスかね」
 そう言うハボックをロイは書類にサインを書こうとしていた手を止めて見上げる。先を促す視線に、ハボックはペーパーウェイトを机に置いて言った。
「オレたちがあそこに行った時、アイツ等と鉢合わせたっしょ?あれは偶々なんかじゃなくて、オレ達同様アイツ等もあそこにもう一度陣を描くために来たのだとしたら?」
 ハボックの意見にロイは眉を顰める。考える表情を見つめて、ハボックは言った。
「あそこ、今は倉庫街になってるっスけど、昔っからそうなんスか?」
「そうだな、少なくとも私がイーストシティに着任した時にはもう今のようになっていたな。その時から結構古びた街区だったぞ」
「だからってずっとそうだったって事にはならないっしょ?実は曰く付きの土地で倉庫ぐらいしか建てられなかったとか言うこと、ないっスか?」
 そう言われてロイはムゥと黙り込む。そんなロイを見下ろしてハボックは言った。
「もしあの場所に何かしら拘りがあるなら、別の安全な場所で陣を完成させても意味ないんじゃないかって気もするんスよね。安全な方法を探せって言われて、軍の敷地の中で描けば少しは安全かなとも思ったんスけど、ふとそんなことが浮かんだもんで」
 ハボックは手にした紙片をヒラヒラさせながら続ける。
「中尉さんに意見聞いたんスよ。オレは錬金術詳しくないし、中尉さんなら上官が錬金術師で普段から錬金術に接する機会もあるだろうしってね」
「お前、本当に怖いもの知らずだな」
「怖かったっスけど、働かないともっと怖そうだから」
 言われて苦笑するハボックにロイは確かにその通りだと頷いた。
「まあ、確かにな」
「んで、あの陣っスけど────」
「大佐」
 言いかけたハボックは乱暴なノックの音と共に扉が開いたのを見て言葉を飲み込む。普段からは考えられない様子で執務室に入ってきたホークアイに、ロイは眉を顰めて立ち上がった。
「どうした、中尉」
「この間のバッジの事が判りました」
 その言葉にロイとハボックは顔を見合わせる。報告を聞こうと見つめてくる二対の瞳を見返して、ホークアイは書類を差し出した。
「あのバッジはゲーティアというオカルト集団の会員に渡されるものです」
「オカルト集団?」
 ロイは差し出された書類を引っ手繰ると報告書に目を通す。脇から書類を覗き込んだハボックが上がってきた情報に目を丸くした。
「これって悪魔崇拝の集団って事っスか?」
「この報告書を読む限りはそうだな」
「じゃあやっぱりあそこは曰く付きの土地なんスよ。ビンゴ!」
 パチンと指を鳴らしたハボックはホークアイを見て言った。
「中尉さん、現場になった倉庫街。昔は何があったのか調べて欲しいんスけど。大至急!────っと」
 言えば途端に鳶色の瞳で睨まれて、ハボックはロイの後ろに隠れる。そんなハボックを肩越しに「おい」と睨んだロイは、ホークアイを見て言った。
「すまんが中尉。あの倉庫街の場所に以前あったものを至急調べてくれ」
「──判りました」
 ロイの言葉にホークアイは短く答えて執務室を出ていく。パタンと扉が閉まって、どちらともなくホッと息を吐き出すハボックとロイだった。



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