| FLARE BLUE 第三十三章 |
| 「車を停めてお前も来い。警備兵に鍵を預ければやってくれる」 「そのまま車を没収とかないっスよね?」 司令部の玄関前に車をつければ、扉を開けながら言うロイにハボックが心配そうに尋ねる。そんなハボックにロイは半ば呆れて答えた。 「誰もお前のエリーゼに手を出したりしない。いいからさっさと来い」 「でも、オレのエリーゼちゃん、美人だしぃ」 「エリーゼを丸焼きにされたいか」 いつまでもグダグダと言うのに一喝すれば、車から降りたハボックが渋々ながら車のキーを警備兵に預ける。さっさと入口に続くステップを上がっていくロイに、ハボックは数歩で追いつくと並んで歩きながら言った。 「いいんスか?オレみたいな一般人が司令部の中に入って」 「一般人?お前みたいな胡散臭いのは一般人とは言わん」 キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回しながら歩いていたハボックは、返ってきた答えに眉を顰める。 「なんかそれ、傷つくんスけど」 「嘘つけ。お前が傷つくものか」 「うっわー、ひでぇッ!マスタング大佐って横暴ッ!!」 司令部の廊下だと言うのに大声で喚きたてるハボックに、ロイは顔を顰めてハボックの腕をグイと引いた。 「おいッ、静かにしろ!」 「なに?キスで口塞ぐ?」 目を吊り上げるロイにハボックが顔を寄せて囁く。そうすれば無言のまま発火布を填めた手を振りかざすロイに、ハボックは慌ててロイの手首を掴んだ。 「暴力反対」 「だったらへらず口を叩くな」 黒曜石の瞳にギロリと睨まれてハボックは肩を竦める。そんな会話を交わしつつ足早に廊下を歩く二人に注がれる視線が幾つもあることに気づいて、ハボックはニッと笑ってウィンクした。 「お前な」 そこここで「キャーッ」と黄色い声が上がるのを聞いてロイがため息を零す。そうこうしている間に司令室にたどり着き、ロイは扉を開いて中に入った。 「大佐!今までどこに行って────貴方は」 足を踏み入れた途端ホークアイの詰問が飛んできて、ハボックはロイを盾にして前へ押しやった。 「おいッ」 「あの中尉さん怖いんスもん」 「私だって怖いんだッ」 大きな体を細いロイの体の後ろに何とか隠そうと無駄な努力をするハボックと、反対にハボックを前へ押しやろうとするロイとを、ホークアイは呆れたように見る。額に指先をあて軽く頭を振ったホークアイは、頭を切り替えて言った。 「彼を連れてきたと言うことは何か進展があったという事ですか?」 「ああ、これを見てくれ」 どうやらお咎めはなしで済みそうだとロイは内心ホッと胸を撫で下ろして言う。ロイがポケットの中からハンカチに包んだブレスレットを取り出すのを見て、ホークアイはハボックをジロリと見た。 「やっと証拠品を渡したのね」 「コンラッドがこれを欲しがっていた理由が判った」 ロイはホークアイの迫力にビクビクと怯えるハボックに助け船を出すように言う。ロイが机の上に広げた薄い紙片に目をやって、ホークアイは首を傾げた。 「これは?」 「実はさっきコイツと二人でコンラッドが殺害された現場に行って、あの時描かれていた陣を描いてみたんだ」 「大佐」 二人きり、危険かもしれない現場に行ったと聞いて険しい顔をするホークアイにロイは片手を上げる。小言なら後で聞くと言うロイにホークアイはとりあえずロイが話すのを待った。 「描いてみて陣の一部が欠けていることに気づいた。ゆっくり検討する前に例の杖男に襲われてな──ああ、いや。大事には至らなかったんだ。コイツのおかげでな」 ホークアイが目を吊り上げるのを見て、ロイは慌てて言う。何度も飲み込んだ小言は後でしっかり言っておかねばと思いつつホークアイは尋ねた。 「それでこれがその一部だと?」 「最初にコイツを手に入れた時にこの紙見つけたんスけど、陣を描いたこの人が文字が足りないって言うんで」 「恐らくこれが欠けていた一部に間違いない。それでだ」 「また陣を描くおつもりなんですね?」 ロイに皆まで言わせずホークアイはため息をつく。ホークアイは鳶色の瞳でロイを見つめて言った。 「全ての言葉を書き込まずに発動させた陣の中でコンラッドは死んでいました。それはもう口にするほどおぞましい姿で。言葉を全て書き込んで陣を発動させる危険はよくおわかりの筈でしょう?」 「勿論。だが他に方法がなければ仕方ない」 そう言うロイがもう陣を完成させることを決めている事が判ってホークアイはため息をついた。 「でしたら一番安全な方法を探してください」 危険と判っている中で安全な方法を探せと言うのもおかしなものだと思いつつ聞いていたハボックは、続くロイの言葉に目を剥いた。 「コイツが何とかする」 「はぁッ?アンタ、いきなり何言い出すんスか!オレは錬金術師じゃねぇんスよ?」 「それでもお前なら何とかするだろう?」 あの状況でロイを無事逃がしたのだ。そう言って笑みを浮かべるロイにハボックは顔を顰める。 「過度な期待は迷惑っスよ」 それでも期待を込めて見つめられれば。 「思いつくか判んねぇっスけど、時間をください」 「あまりやれんがな」 「思いつくか判らないっスからね」 ため息混じりに念押しするハボックに、ロイはにっこりと笑った。 |
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