FLARE BLUE  第三十二章


「あちッ!」
 熱いのを我慢してなんとか熱々のピザを手に取ったまではよかったが、いざ食べようと口元に近づければ蕩けたチーズの熱さにロイは顔を顰めてピザを遠ざける。ふとテーブルを挟んで座るハボックを見れば、ハフハフと熱い息を吐き出しながら瞬く間にピザを平らげ、次のピザに手を伸ばした。
「おい、私の分も残しておけよッ」
 ロイはフーフーと皿の上のピザに息を吹きかけながら言う。ロイがまだ一枚も食べられないでいる内にハボックは三つ目のピザに手を伸ばした。
「猫舌?アンタっぽいっスね」
「どういう意味だッ?」
 ニヤニヤと笑って言うハボックをロイは睨む。更に次のピザに手を伸ばしてくるのを、ロイはピシリと叩いた。
「少しは遠慮ってものがないのか?お前は!」
「ピザなんて熱いうちに食ってなんぼっしょ?」
「ピザはチーズが少し堅くなってきた頃がいいんだ」
「いや、それはないっスから」
 幾ら猫舌でもそれはないだろうと、ハボックは呆れてロイを見る。それでも流石に悪いと思ったのか、ハボックはシーザーサラダを取り分けてムシャムシャと食べた。
「おい、食べながらでもいいだろう?さっき言ってた文字を教えろ」
 幾ら頑張ってもハボックのような勢いでピザを食べるのは無理だと判ると、ロイは一生懸命息を吹きかけて冷ましたピザを齧りながら言う。だが、ハボックはアイスコーヒーを啜りながら首を振った。
「嫌っスよ。そんな消化の悪そうなこと。難しい話は食事が済んでからっス。アンタがさっさと食えばいい話っしょ」
「この……ッ」
 さっさと食べたくても食べられないのを知っていながらそんな事を言うハボックを、ロイは悔しげに睨む。皿の上に残るピザに視線を移すと手を伸ばしガツガツと食べ始めた。
「ちょ……、────あーあ」
「あつ……ッ!あっつーッ!」
 勢いよく食べ始めたはいいが結局半分も食べない内に口元を押さえるロイに、ハボックは呆れたため息を零す。水を一口口に含み腰を浮かしたハボックは、手を伸ばしてロイの顎を掬うと唇を合わせて口に含んだ水を飲ませた。
「んッ!ん……ぅん」
 一瞬目を見開きハボックを突き放そうとしたものの、流れ込んでくる水の冷たさにロイはホッと息をつく。突き放そうとした手でハボックの襟元を掴んで水を飲み込めば、水と一緒に忍び入ってきたハボックの舌がロイの口内を舐め舌を絡めてきた」
「ぅ……ん……んふ」
 冷たい舌の感触に、ロイはうっとりと鼻を鳴らす。トンと胸を押すようにしてハボックは唇を離すと、「ハア」と息を漏らすロイに言った。
「無理しないでゆっくり食って。食い終わったらちゃんと話すから、ね?」
「うー……」
 不満そうにすれば指先でピシッと額を弾かれて、ロイは渋々ながらもゆっくりとピザを口に運んだ。


「食い終わったぞ」
 ロイは食後の挨拶もそこそこに口元をナフキンで拭いながら言う。コップの水でナフキンを濡らして指先を拭いたハボックは、ポケットからブレスレットを取り出した。
「大事な証拠品をそんな粗雑な扱いしやがって」
 何かに包むでもなくポケットにぞんざいに突っ込んであったのを見て、ロイはハボックを睨む。テーブルに置かれたブレスレットを手にとって見つめながらロイは言った。
「それで?あの陣に抜けていた言葉とこれがどう関係があるんだ?」
 コンラッドが高い依頼料を払ってまで手にしようとしていたものだ。何かの意味があるのだろうとは思ってもすぐには思いつかない。手にしたブレスレットを眺め眇めつするロイの手からブレスレットを取り上げて、ハボックはポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。
「おい」
 開いたナイフの切っ先を飾りの一つにねじ込むのを見て、ロイが眉を顰める。壊したら赦さんと視線でプレッシャーをかけてくるロイに構わずハボックがナイフを捻れば、パカッと開いた飾りの中から薄い紙片が出てきた。
「これ」
 と、ハボックはナイフの切っ先を使って紙片を開く。そうすれば細かな文字がびっしりと書かれているのを見て、ロイは目を見開いた。
「最初見つけたときはなんだか判らなかったんスけど、これ、あの陣に抜けてた文字じゃないっスか?」
 そう言うハボックの言葉にロイは紙片に書かれた文字を食い入るように見つめる。さっき描いた陣の文字と頭の中で照らし合わせてロイは頷いた。
「間違いない。あの陣に抜けてたのはこれだ」
 そう言って顔を上げるロイにハボックはニヤリと笑う。
「やっぱり。────で?どうします?」
 抜けた文字を描き込めば陣は完成し、それが意味するものも判るかもしれない────勿論、危険は伴うだろうが。
「もう一度陣を描く」
「場所はあの場所じゃなくちゃいけないんスか?司令部の中とかの方が邪魔が入らないんじゃねぇの?」
「何が起こるか判らない陣を司令部の中に描けるか。それに、あの場所でなければいけないのかもしれないし」
「なるほど」
 前半の理由は若干身勝手と言えないこともないが、後半の理由は尤もらしい。
「だが、流石に今から戻ってと言うわけにはいかないな、あの杖男の事もあるし。一度司令部に戻らないと」
「あのおっかねぇ中尉さんがお冠かもしれないしね」
「それを言うな」
 思い出したくないことを言われてロイは眉を寄せる。それでもこれで大きく捜査が進展すると思えば、ロイの唇に笑みが浮かんだ。
「車を回せ、司令部に戻る」
「アイ・サー」
 司令官らしい凛とした笑みを浮かべるロイに、ハボックがおどけた調子で答えた。



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