| FLARE BLUE 第三十章 |
| 「危ないッ!」 「うわっ」 ドンッとハボックに突き飛ばされてロイは背後に倒れる。咄嗟のことで受け身を取れずに床に頭を打ちつけると思ったが、覚悟していたような痛みは襲ってこずロイはハボックが手を入れて頭を庇ってくれたのだと気づいた。 「一体何が────」 「アイツらっスよ!この間の杖男ッ」 その言葉に視線を巡らせれば、ハボックの肩越し先日相見えた杖を持った男達が目に入る。男達に向かって発火布を填めた手を翻そうとしたロイは、その手をハボックに掴まれてムッと顔を歪めた。 「おいッ」 「こんな狭いとこで焔合戦したら共倒れだってば」 ハボックは言って身を起こす。そのハボックにグイと引っ張られるようにして立ち上がるや否や、ロイは手を引かれて走り出すはめになった。 「ハボック!────うわッ!」 頭上を焔が掠めて、ロイは手を引かれて走りながら首を竦める。乱雑に積まれた木箱や放置された機械を縫うようにして走る二人を狙って、幾つもの火球が二人の周りで弾けた。 「逃げるなんて性に合わんッ!」 「好き嫌いを言ってる場合じゃねぇっス!」 肩越しに追ってくる男達を振り向いてロイが叫ぶ。ハボックの手を振り払って追ってくる男達と対峙しようとしたロイは、グイと腰を引き寄せられて短い悲鳴を上げた。 「離せッ、このッ」 「言うこと聞かねぇお姫様っスね!」 立ち止まれば途端に襲ってくる火球をよけて、ハボックはロイを抱えたまま手近の木箱の陰に飛び込む。ハボックの手を振り解いて飛び出そうとするロイを力任せに引き戻して、ハボックはロイの顎を掴んだ。 「アンタそれで本当に軍の司令官ッ?」 「煩いなッ!あんなエセ焔使い、私の焔で────、んんッッ!!」 叫ぶ言葉を口づけで封じられてロイは目を見開く。抗議の意味でハボックの胸を拳で叩いたが、一層深く口づけられたロイは酸欠でくったりとハボックにもたれ掛かった。 「少し静かにしてろっての」 ハボックはロイの体を抱き上げながら言う。ぼんやりと見上げるロイの視線の先で、ハボックは胸のポケットから取り出したサングラスをかけた。 「目ぇ瞑ってて」 そう言うなりハボックはベルトにつけていた小さなポーチから何やらボール状のものを取り出す。それを追いついてきた男達のすぐ足下に投げつけた。ボールが地面に当たった瞬間、カッと弾けたボールから目映い光が迸る。悲鳴を上げて目を押さえて蹲る男達を後目に、ハボックはロイを抱えて走り出した。 「ハボック、中に戻れッ」 「冗談っしょ、ここは退却っスよ」 ロイは下ろせとハボックの腕の中で暴れる。手のひらで顎をグイグイと押されて、ハボックはやれやれと顔を顰めた。 「ああもう……、あの陣に足りない文字、教えてあげないっスよ?」 「ッ?お前……なにか知ってるのかッ?」 ハボックの言葉にロイは目を見開く。グイとハボックの襟首を掴んで顔を寄せれば、ハボックがニヤリと笑って言った。 「知りたい?だったらまずはここから逃げるのが先決っスね」 「────判った。自分で歩くからおろせ」 キュッと唇を噛んで言うロイをチラリと見て、ハボックはロイを地面に下ろす。倉庫の扉からそっと外を窺って誰もいないのを確かめて、二人は足早に倉庫から出た。 「急いで、目が見えるようになったらすぐ追ってくるっスよ」 「どうせ投げるなら爆弾とかにすればいいのに」 「アンタ、顔に似合わず物騒なこと言うっスね」 半ば呆れたように言うハボックと共にロイは車のところまで戻ってくる。ドアを開け乗り込もうとした時、空気が焼ける匂いがして火球が飛んできた。 「チッ」 咄嗟にロイが指をすり合わせ、生み出した焔が火球を飲み込む。その隙に車に乗り込むと、ハボックがドアを閉めきらない内にアクセルを踏み込んだ。 「追ってくるぞッ!」 「でしょうねぇ」 狭い倉庫街の道路を走るハボック達の車を男達の車が追ってくる。車から半身乗り出した杖男が振るう杖から迸る焔をハボックは車のスピードを緩めないまま右に左にと避けた。だが、一際大きな火球が、ハボック達の行く手の鉄塔を直撃する。根元から折れた鉄塔が倒れてくるのを目にして、ロイが叫んだ。 「止まれッ!ぶつかるぞッ!」 「嫌だなぁ、車は急には止まれないってのが相場っしょ!」 ハボックは言うと同時にグイとアクセルを踏み込む。倒れてくる鉄塔に突っ込んでいく車に、ロイは悲鳴を上げて頭を庇うように腕を頭上で交差させた。腕の隙間から目の前に迫る鉄塔がロイの見開いた黒曜石に映る。 (潰されるッ!) 重い鉄の塊に車ごと潰されるとロイが思った瞬間、車高の低い車は地面と鉄塔の間に残されたギリギリの隙間をすり抜けるようにくぐり抜けた。 ドオオンッ!ガッシャーン!! 「ッッ!!」 背後に聞こえる凄まじい音にロイが振り向けば、崩れ落ちた鉄塔と追ってきた車がそれに向かって突っ込むのが見えた。 |
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