| FLARE BLUE 第二十七章 |
| 「陣を描くってどこに描くんスか?」 店を出て歩いていくロイの後をついていきながらハボックが尋ねた。 「北地区の倉庫街だ」 「北地区って……アンタ歩いていく気っスか?」 ロイが告げた場所を聞いて、ハボックは眉を顰めて立ち止まる。後からついてくる足音が止まった事に気づいて、ロイも立ち止まって振り向いた。 「そのつもりだが?」 「イーストシティを歩いて縦断するつもりっスか?冗談っしょ」 確かにハボックの言うとおりではあるのだが、車はもう帰してしまった。もう一度呼ぶのも憚られて、ムゥと黙り込むロイにハボックは考える仕草をして言った。 「ちょっと待って貰えたら車用意するっスけど」 「お前、車を持ってるのか?」 小さなアパート住まい、悪いが便利屋稼業でそれほどの稼ぎがあるとは思えない。意外だと表情に出して見つめてくるロイにハボックは笑った。 「まあ、持っているというかいないというか」 「よく判らんぞ」 ロイは眉を顰めてハボックを見る。 「でも車はあった方がいいっしょ?」 「……まあな」 口では歩いていくと言ったものの車の方がいいに決まっている。じっと見つめればハボックがプカリと煙を吐いて言った。 「判ったっス。ちょっと回してくるっスから、大通りに出たところで待ってて下さい」 「ああ」 「変な人について行っちゃダメっスよ?」 「ああ────って、私は子供かッ!」 ついうっかり返事をしてしまってからその内容に気づいて、ロイはすわと目を見開く。言い返そうとした時にはもうハボックの姿はなくて、ロイはチッと舌打ちして大通りの方へと歩いていった。 ロイは角を曲がって通りに出たところで足を止める。建物の壁に背を預けるように立つロイを、近くを通り過ぎる通行人がチラチラと見ながら通り過ぎていった。 (奴らは一体何者なんだろう) ロイは杖を持った男が唱えた呪文を思い出す。あんなものはおとぎ話だと思っていただけに、実際目の前で見たのでなければとても信じられるものではなかった。 (陣を描けば見ていただけの時には気づかなかった事に気づけるかも知れない) 自分が普段描く陣と何が違うのか、それが判れば事件を解決する突破口になるかもしれない。 己の考えに耽って、ロイは見るともなしに宙を見据える。ハボックが戻ってくるまでの間、ああでもないこうでもないと考えていたロイは、不意に目の前に立った男に眉を寄せた。 「邪魔だ」 低い声でそう言うロイに男はにっこりと笑いかける。壁に手を突いてロイに身を寄せるようにして言った。 「なあ、アンタ、この間“K”に居たろ?ハボックとキスしてたよな」 「ッ!」 唐突にそんなことを言われてロイはカッと顔を赤らめる。それでもそれがどうしたと言うように睨みつければ、男がニヤニヤと笑った。 「あんな奴やめてさ、俺にしない?可愛がってやるぜ?」 男はそう言って指先でロイの白い頬に触れる。無遠慮に触れてくる男の手をロイは思い切りはねのけた。 「触るな、下衆が」 「な……ッ」 キッと睨んでくる黒曜石の強く澄み切った光に、男は一瞬怯んだがすぐに気を取り直してロイを睨みつける。 「なんだと?何様のつもりだっ」 男はロイの襟首を掴もうと手を伸ばす。だが、その手が目的のものを掴む前にロイがその手首を掴んで捻り上げた。 「イテテテテッッ」 捻られた痛みに男が悲鳴を上げる。ロイは男を突き飛ばすようにして掴んだ手を離すと言った。 「痛い目にあいたくなければとっとと失せろ」 「…………この野郎ッ」 怒りに顔を真っ赤に染めた男はポケットに手を突っ込むと折り畳み式のナイフを取り出す。軽く振ってパチンと刃を出して低く構えた。 「ちょっと手加減してやればいい気になりやがってッ!その綺麗な顔、二度と見られなくしてやるッッ!」 そう怒鳴る男にロイは発火布を填めた手を上げて身構える。男が向かってくるより先に燃やしてやろうと指をすりあわせるより先に、戻ってきたハボックが思い切り男の頭を殴った。 「────」 ナイフを手にした男は声もなくその場にくずおれる。驚いたように見つめてくる黒曜石を見つめて、ハボックは言った。 「だから変な人についてっちゃダメって言ったのに」 「いつ私が変な人についていったと言うんだッ!そもそもお前が私にキスしたりするから────」 「いいんスか?そんな大声で」 ハボックに半ば呆れたように言われて、ロイは慌てて口を閉ざす。そんなロイにやれやれとため息をついてハボックは言った。 「車用意出来たっスよ」 こっちです、と言うハボックについていったロイは、路上に停められた車を見て目を見開いた。 |
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