| FLARE BLUE 第二十六章 |
| 「中尉が出ていったらアイツらも尻尾丸めて逃げ出すんじゃないか?そしたら一件落着だ」 ホークアイが出ていった扉を見つめてロイは呟く。もっとも幾ら何でもそんなことはないとよく判っていて、ロイはやれやれとため息をついて抽斗を開けた。そこからそもそも今回の事件の発端となった陣が描かれた紙を取り出す。頬杖をついてしげしげと見つめていたロイは、それを手に立ち上がった。 「大佐?」 「ちょっと出かけてくる」 執務室の扉を開ければ、書類から顔を上げたフュリーにそれだけ言って大部屋を横切る。そのまま足早に廊下を歩き玄関に出ると警備兵に車を出すよう命じた。 「どちらへ?マスタング大佐」 家との送迎もよく担当するその警備兵は慣れた様子でロイに尋ねる。それに行き先を告げてシートに凭れたロイは手にした陣を見つめた。 程なくして車は繁華街の中へと入っていく。ロイは警備兵に声をかけると自分で車の扉を開けた。 「ここでいい。君は司令部に戻ってくれ」 「えっ?よろしいんですか?マスタング大佐!」 てっきり待たされると思っていた警備兵は慌てて声を張り上げる。だが、ロイは扉を閉めることで警備兵の声を遮ると足早に通りを歩いていった。いくつか角を曲がり“K”の前までやってくる。黒い扉を睨むように見上げたロイは思い切り扉を叩いた。ドンドンと壊れんばかりの勢いで扉を叩けば、暫くしてガチャリと鍵を開ける音がする。扉が開いて中から目を吊り上げたバーテンの男が出てきた。 「まだ開店前だよ!夕方になってから────」 「ハボックはどこだ?」 ロイは男にしまいまで言わせずそう尋ねる。怒鳴りかけたところを遮られて、気を削がれた男はロイを見つめて「あっ」と声を上げた。 「アンタ、ハボックとキスしてた────」 「それは今どうでもいいッ!」 思い出したくないことを言われて、ロイは顔を赤らめて言う。ジロリとロイに睨まれて、男は頭を掻きながら言った。 「今日はまだ来てないな。店が開く前からでも来ることが多いから待つかい?」 「ハボックのアパートを知らないか?なるべく早く会いたいんだが」 「あんまり追っかけない方がいいよ?本気になりすぎると大変だからさぁ────うわッ?!」 男はいきなり煙を上げ始めた前髪にギョッとして、両手で髪を叩く。なんだ?と慌てて辺りを見回す男の襟首を掴んでロイは言った。 「どこに行けばハボックに会える?答えろ。でないと──燃やすぞ」 低く囁いて睨んでくる黒曜石に男は目を見開く。襟首を掴むロイの手を掴んで首を振った。 「ごめん、知らない。本当に知らないんだ。多分もう少ししたら来ると思うから!ここで待ってな、ね?」 男は引きつった笑みを浮かべて言う。その様子に本当に知らないのだと察して、ロイは舌打ちして男を離した。 「仕方ない。じゃあ待たせて貰う」 ロイはそう言って男を押しやるようにして店の中へと入った。 「あれ?」 二杯目のコーヒーを飲み終わる頃、扉が開く音に続いて声がする。振り向けば煙草を咥えたハボックがロイを見下ろして立っていた。 「こんな時間からどうしたんスか?」 ハボックはロイを見て言い、バーテンを見て首を傾げる。バーテンが必死に目配せで知らせようとしたが、ハボックは判らんと苦笑してロイを見た。 「遅い。もっとさっさと来い」 「そんなこと言ったってアンタが来てるなんて知らないっスもん」 黒曜石にジロリと睨まれてハボックは苦笑する。ロイの隣のスツールに腰を下ろして尋ねるように見つめた。 「この陣を描いてみたい」 「は?」 「何か判るかもしれないだろう?」 そう言うロイをハボックはじっと見つめる。ポリポリと頬を掻いて言った。 「昨日渡したバッジはどうしました?」 「今調べてるところだ」 「だったらその結果が判ってからの方がいいんじゃないんスか?」 そう言ってハボックは短くなった煙草を灰皿に押しつけ、新しい煙草を取り出す。ライターで火をつける前にロイがパチンと指を鳴らせば、ポッと煙草の先端に火がついてハボックは目を瞠った。 「──どうも」 短く礼を言ってハボックは煙草を吸い煙を吐き出す。じっと見つめてくる黒曜石の視線の強さにボフッと煙を吐いて、ハボックはやれやれと額に手を当ててロイを見た。 「ホントにもう……。つきあえばいいんしょ?」 「それからお前が持ってる依頼品も出せ。いい加減はぐらかすなよ。こっちも日々の平安がかかってるんだ」 「日々の平安ってなんスか、それ」 アメストリスの平安のことだろうかとも思ったが、何となく違う気がする。だが、ロイはそれには答えず立ち上がった。 「無理を言って悪かったな」 「えっ?……ああ、いや。また何かあったらおいでよ」 ロイの言葉に一瞬ポカンとしたバーテンの男は、照れたように笑って言う。バイバイと手を振るバーテンに笑みを浮かべたロイは、スッとその笑みを消してハボックを見た。 「行くぞ」 「────怖いっスよ。オレとしては可愛いアンタの方が────」 言いかけて発火布をはめた手を突き出され、ハボックは口を噤む。フンッと鼻を鳴らして店を出ていくロイを、ハボックは肩を竦めて追いかけた。 |
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