| FLARE BLUE 第二十五章 |
| 「一体何者なんだろう……」 執務室の中、書類の山に埋もれてロイは呟いた。頬杖をついて目を閉じれば狭い路地に立つハボックの姿が蘇る。銀色の月光に照らされたハボックの瞳が、妖しい蒼い光をたたえたと思ったのは決して思い違いではなかった筈だ。 「フレア・ブルー……」 襲ってきた男たちが言っていたフレア・ブルーという言葉。ハボックは聞いていないと言っていたが、あれは嘘だとロイはそう確信していた。 「あの時だって」 送って行くと言ってアパートを出た。イーストシティに住むようになってもう随分とたつのに知らない場所があるというのはさておき、気がつけば見慣れた大通りに出ていたというのが納得いかなかった。あの後真っ直ぐ帰らずに、すぐ近くの路地に入ってみた。だがそこはロイも知っている路地裏に過ぎず、ハボックのアパートに戻ることは出来なかった。 「仕方ない、か……」 何も判らない相手にこちらの手の内を明かして協力を取り付けるのは気に入らないが、今この現況ではどうしようもないのも事実だ。それでも残る不満にロイがガシガシと頭を掻いた時、軽いノックの音がしてホークアイが執務室に入ってきた。 「大佐」 ファイルを手にホークアイの鳶色の瞳がロイを真っ直ぐに見る。ホークアイが口を開くより早く、ロイが「あっ」と声を上げた。 (しまった、依頼品を貰ってくる約束だった) ハボックがコンラッドの依頼で手に入れたもの。調べれば何か判るかもしれないとハボックから受け取ってくる筈だったのだが、襲撃を受けたせいでコロッと忘れていた。どうしようかと一瞬悩んだものの、下手な言い訳をするより正直に話した方がいいだろうとロイはホークアイが何か言うよりも早くにっこりと笑って話しかけた。 「中尉、昨日言っていた依頼品の件なんだが」 「忘れたんですね」 「うッ」 説明する前に結果を指摘されてロイは言葉に詰まる。鳶色の瞳に冷たく見つめられて、ロイは慌てて言葉を繋いだ。 「別にポヤッとして忘れた訳じゃないぞ。夕べハボックと通りを歩いていたら襲撃を受けてだな」 「襲撃、ですか?誰にです?」 説明を始めれば途端にそう返されて、ロイは内心“よしっ”と拳を握る。これならそうそう怒られはしなさそうだとロイは答えた。 「まだ判らん。判ったのはコンラッドが奴らの仲間で、殺されたのは奴らを裏切った事に対しての見せしめの意味だと言うこと。ハボックが持っている依頼品は誰かが奴らのところから持ち出したものをコンラッドが先に在処を見つけてハボックを使って手に入れようとしたらしいということと、奴らはそれを取り戻したがっていること。それから奴らがなにやら怪しげな術を使うと言うことだ」 「怪しげな術と言うのはどんな術なんです?」 そう聞かれてロイは杖の男がなにやら詠唱のようなことをしていたのを思い出す。 「なにやら呪文のようなものを唱えていた。それを唱えたら持っていた杖から炎が迸ったんだ」 「まあ」 ロイの説明にホークアイが驚きに目を瞠った。 「錬金術とは違うんですか?」 「違うと思う。少なくとも私が操る焔とは性質が違うようだ」 発火布に描いた錬成陣で燃焼物や酸素を錬成して焔を起こす己の錬金術とは性質が全く異なる、何か禍々しい力に依っているような、そんな気がする。コンラッドの死に方を思い出せばあながちその考えも間違ってはいないのではないだろうか。 「あ、そうだった」 そんな事を考えていればロイはハボックがくれたバッジの事を思い出す。ポケットに手を突っ込み入れておいたバッジを取り出した。 「昨日私たちを襲ってきた奴らがつけていたものだ」 ロイはそう言って手のひらに乗せたバッジをホークアイに見せる。 「どいつもどこかしらにこれをつけていた。恐らく所属する組織の印なんだと思う」 「ではこれを調べればその連中が何者なのか判るかもしれないということですね」 すぐ調べますと、ホークアイはロイの手のひらの上のバッジを指で摘み上げた。 「頼むよ」 そう言うロイにホークアイは笑みを浮かべて頷く。すぐ手配しますと執務室を出ていこうとするホークアイに、ロイが内心“上手く行った”と安堵のため息をついた時、執務室の扉に手を伸ばしたホークアイが言った。 「今回、襲撃者に襲われて依頼品を受け取ってこなかったのは仕方ないとしましょう。でも、今の話を聞く限り、依頼品は事件を解く重要な手がかりであるのは確かです。そうですね、大佐」 「あ、ああ。確かに君の言うとおりだよ、中尉」 確かめる言葉にロイは頬を引きつらせて答える。持ち上げた唇の端をヒクヒクと震わせるロイを見つめてホークアイが言った。 「では今度こそ依頼品を受け取ってきて下さい、いいですね」 「わ、判った」 襲撃者よりも恐いホークアイに睨まれて、ロイはコクコクと頷いた。 |
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