| FLARE BLUE 第二十二章 |
| 「な……ッ?!」 文字通りいきなり姿を現した男たちにロイは目を見開く。確かに今まで何の気配もしなかった。自分とて軍人の端くれ、明らかに自分たちに対して敵意を抱いていると判る人間の気配に気づかない筈はなかった。 「何者だ?!────お前の知り合いか?ハボック」 「んな訳ねぇっしょ」 問い質したところで返る答えがないのも判っていて、ロイはハボックに尋ねる。そうすれば思い切り顔を顰めてハボックが答えた。 「知り合いじゃねぇっスけど、知り合いにはなれるかなって思ってましたけどね」 「?どういうことだ?」 咄嗟にハボックが言っていることが判らず、ロイは眉を寄せる。そうすればジリジリと迫ってくる男たちとの間合いを計りながらハボックが答えた。 「アンタから依頼を受けたオレのポケットには、この間変死した男からの依頼品が入ってるって情報、流したんで」 「──なんだと?」 一瞬ポカンとしたロイは次の瞬間目を吊り上げる。怒鳴ろうとロイが口を開くより早くハボックが言った。 「来るっスよ!」 その声にハッとしてロイは自分たちを取り囲む男たちに目をやる。中の一人が口の中で何かを呟いたと思うと、手にした杖から炎が迸った。 「ッ?!」 驚きに目を見開きながらもロイは発火布を填めた手の指をすり合わせる。ロイの指先から放たれた焔の龍が男が放った炎を飲み込んだ。 「流石焔の錬金術師!」 笑みを浮かべて言いながらハボックはロイの龍と並ぶようにして杖を構えた男に飛びかかった。 「くッ」 飛びかかってきたハボックに杖を掴まれて、男は低く呻いてハボックを振り払おうとする。杖を挟んで男と睨み合うハボックに他の男たちが手を貸そうとするのに、ロイは続けて指をすり合わせた。何匹もの龍が狭い路地を暴れ回り男たちが悲鳴を上げる。ハボックに加勢しようと駆け寄ろうとするロイのすぐ前にいきなりヌッと現れた男が立ちはだかった。 「ッ?!」 よける間もなく伸びてきた太い腕に首を絞められて、ロイは顔を歪めた。 「クッ……この……ッ」 腕と首の隙間に指をねじ込んで、ロイはなんとか腕を外させようとする。だが、腕は弛むどころかグイグイと細い首を絞め上げて、ロイは苦しげに呻いた。 「クソ……ッ」 上手く息が吸えず目の前がチカチカする。無意識に締め付けてくる腕を引っ掻くロイの耳に低い怒りを孕んだ声が聞こえた。 「オレの依頼人に手ぇ出してんじゃねぇよッ!貴様らの相手はオレだッ!!」 そう怒鳴るハボックの声に続いて、青白い光が辺りを包む。霞む瞳でその光を見つめるロイに男たちの誰かが言うのが聞こえた。 「フレア・ブルー?!そんな馬鹿な……ッ」 「フレア……ブルー……?」 弛んだ男の腕から地面に倒れ込みながら、駆け寄ってくるハボックの姿を見たのを最後にロイの意識はプッツリと途絶えた。 「う……」 低く呻いてロイはゆっくりと目を開ける。見上げれば薄闇の向こう、見慣れない天井が見えた。 「あ。気がついたっスか?」 カチャリと扉が開く音に続いてそう言う声が聞こえる。ゆっくりと目を向ければ部屋に入ってきたハボックが枕元に手をついてロイの顔を覗き込むようにして言った。 「大丈夫っスか?気分はどう?」 そう言う男をロイはぼんやりと見上げる。返事を寄越さないロイに、ハボックが心配そうに眉を寄せた。 「オレの声、聞こえてます?」 ハボックはそう言ってロイの髪をかき上げる。首を傾げたハボックは、まだぼんやりとしているロイに顔を寄せた。そのままロイの唇に己のそれを重ねる。薄く開いた唇の間から舌をねじ込むと、歯列をなぞりきつく舌を絡めた。 「────。……ッッ?!」 ビクッと大きく震えたロイは焦点が合わないほど近づいた男を目を見開いて見つめる。反射的にドンッと突き放せば、「おっ」と突き飛ばされた男が声を上げた。 「気がついたっスか?」 「────ハボック」 その声にロイは自分にキスしていたのがハボックだと気づく。改めてキョロキョロと部屋の中を見回して言った。 「ここは?」 「オレのアパートっスよ。アンタ、首絞められてイっちまったの、覚えてない?」 そう言われてロイは記憶を探る。路地を通り抜けようとすればいきなり現れた男たちの姿を思い出して、ハッと顔を上げた。 「あの男たちはッ?まさか依頼品を奪われたんじゃ────ゲホッ、ゲホゲホッ」 「んなドジ踏むわけないっしょ」 ギクリと慌てて尋ねるロイにハボックが嫌そうに顔を顰める。いきなり声を張り上げたせいで痛めた喉に負担がかかってゲホゲホと咳込むロイを見て、ハボックは枕元のテーブルにおいてあった水のグラスを取り上げた。 「水。噎せないように少しずつ飲んで」 ハボックはそう言ってロイの口元にグラスを当ててやる。背中を撫でてやりながらグラスを傾ければ、ロイはゆっくりと水で喉を潤した。ハボックはグラスを枕元に戻す。 「もう少し休んだ方がいいっスよ。話はそれから────」 「もう十分休んだ。何があったか話せ」 そう言って睨むように見つめてくる黒曜石にハボックは目を見開く。それからクスリと笑ってベッドの側に椅子を引き寄せ腰を下ろした。 |
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