FLARE BLUE  第十六章


「……指輪の持ち主はコンラッドと名乗っていたそうだ」
「コンラッド、ですか?」
 ロイが告げた名をホークアイは繰り返す。それから当然の疑問を口にした。
「どこでこの持ち主の事を?」
「そうですよ、一体どうやって調べたんです?こっちなんてまだ皆目検討もついてなかったのに」
 指輪の持ち主を捜せと命じられて部下と共に懸命に探していたブレダにしてみれば、いとも簡単にその人物を捜し当てられた理由を知りたいのは尤もだ。乗り出すように机に手をつくブレダに、圧迫感を覚えてロイは軽く手を振ってその身を遠ざけさせた。
「中尉。この間街で見かけた男を覚えているか?────ほら、君が腕を捻り上げたあの男だよ」
 僅かに眉を寄せるホークアイにロイが付け足すように言えば、ホークアイが「ああ」という顔をする。
「確かハボックとか……、彼があの被害者と知り合いだったんですか?」
「知り合いと言うのとはちょっと違うかもしれんが」
 と、ロイはハボックが何故コンラッドの事を知っていたのか手短に説明する。コンラッドが生前ハボックに某かの依頼をしていたと聞いて、ホークアイは首を傾げた。
「依頼というのはなんだったんでしょう」
「詳しいことは判らんが『頼まれたものを手に入れた』と言っていたな」
「それ、見たんですか?大佐」
「いや」
「どうしてです?事件に関わるものかもしれないじゃないですか」
 尤もなことをブレダに言われてロイは言葉に詰まる。
「見せるように仰らなかったんですか?」
 ホークアイにまで聞かれてロイは渋々と答えた。
「言ったさ。殺人事件に関わるものかもしれないから見せろとな。でもアイツ、見せて欲しけりゃ依頼主になれとか言い出して……」
「依頼主になれば見せてくれるっていうなら、軍として依頼したらいいじゃないですか。ねぇ、中尉」
 それくらい軍として何とか出来るだろうとブレダがホークアイに同意を求める。「そうね」と頷いてロイを見たホークアイは、ロイの様子に引っかかるものを覚えて目を細めた。
「大佐」
「依頼料、一億センズだぞ」
「いっ、一億ッ?なんですか、それ!」
 目玉が飛び出そうな金額だとブレダが喚く。だが、ホークアイは全く動じた様子もなくロイをじっと見つめ続けた。
「大佐、他にも提示されたんじゃないんですか?」
 そう言って見つめてくる鳶色の瞳にロイは視線をさまよわせる。何とか誤魔化そうとしたものの誤魔化しきれないと悟って、ロイはウーッと呻いた。
「大佐」
「百万センズと前金に私の、その……キッ……をっ」
「え?」
「大佐のなんですか?キッ?」
 もごもごと口の中で言われてホークアイもブレダも眉を寄せる。ちゃんと言えと見つめてくる視線に耐えきれず、ロイはやけくそ気味に怒鳴った。
「前金に私にキスしろと言いやがったんだッ!あのクソったれはッ!!」
 言って真っ赤な顔でハアハアと肩で息をするロイをホークアイとブレダは目を丸くして見つめる。それから顔を見合わせて言った。
「捜査の進展のためですから四の五の言っている場合じゃありませんわ」
「そうですよ。大佐のキス一つで済むなら安いもんじゃないですか。もしかしたらもう二つ三つキスしたら、百万センズももっと負けてくれるかもしれませんよ?」
「あのなぁッ!」
 明らかに他人事だと思っているのが見え見えの二人の言葉に、ロイはバンッと机に手をついて立ち上がる。
「冗談じゃないぞッ!なんで私がアイツにキスなんてしなくちゃならないんだッ!」
「でも、それで捜査に協力して貰えるのでしょう?あんな手口で人を殺すような犯人を、これ以上野放しにしておく訳にはいきませんわ」
「そうですよ。そんなことで駄々こねてる間に新たな事件が起きたらどうするんです?」
「う……ッ」
 二人の言うことはあまりに正論過ぎて反論の余地がない。ロイが言葉に詰まっていればホークアイがきっぱりと言った。
「とにかく彼にキスでもなんでもして捜査協力を依頼してください。出来ればもう少しサービスして捜査費用も値切って頂きたいですわ」
「サービスってなんだ、サービスって!」
「キスに上乗せするサービスと言ったら大佐の方がよくご存じなんじゃありませんか?」
 にっこりと綺麗な笑みを浮かべて言われて二の句が継げないでいるロイに、ホークアイは笑みを引っ込めて言った。
「とにかく、そのハボックという何でも屋に軍への捜査協力を取り付けてください。それが出来ないようでは無能と罵られてもしかたありませんわね」
「雨の日以外も無能じゃ救いようがないんじゃないですか?」
 ホークアイの言葉にブレダが呆れたように言う。冷たい二人の部下の視線に耐えかねて、ロイは思わず拳を握り締めて声を張り上げた。
「いいだろう、ハボックがタダで幾らでも捜査に協力したくなるくらい極上のキスをしてきてやるッ!」
「おお、流石大佐!これで捜査も進みますね!」
 そう言ったブレダがパチパチと拍手する音に、ロイはハッと我に返る。恐る恐るホークアイを見れば。
「それではよろしくお願いいたします、大佐」
 にっこりと微笑む有能な副官に、ロイはガックリと椅子に腰を落としたのだった。


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