| FLARE BLUE 第十四章 |
| 「もしかしてお前が見たというのはこの指輪じゃないのか?」 ロイは言ってハボックの方へ写真を押し出す。テーブルから写真を取り上げたハボックが写し出された指輪を見て僅かに目を見開いたのをロイは見逃さなかった。 「そうなんだな?何者なんだ?この指輪の持ち主は」 指輪の写真をじっと見ていたハボックは、写真から視線を上げてロイを見る。写真をロイの方へ滑らせて、ハボックは言った。 「まだオレが見たのがこの指輪だなんて言ってないっスよ」 「知ってるという顔だった。私の目を誤魔化そうとしたところで無駄だ」 ピシリとそう言って見つめてくる黒曜石の強さにハボックは目を瞠る。さっきまでの顔を赤らめたり、ちょっとした揶揄にムキになったりしていたのとは一転したロイの様子に、ハボックはニヤリと笑った。 「ふぅん、お飾りで大佐の肩章つけてる訳じゃねぇんだ。焔の錬金術師の名は伊達じゃないんスね」 そう言うハボックをロイは何も言わずに見つめる。普通の人間なら怯んでしまうような鋭い眼光をハボックは平然と受け止めていたが、やがて肩を竦めて答えた。 「依頼人の事は教えられないっス。一応信用商売なんで」 幾らロイがアメストリス国軍の大佐だとはいえ、ハボックに情報の提供を強要は出来ないはずだ。 「まあ、なんかの事情で連絡出来ないだけでそのうち向こうから連絡くるでしょうし」 なにせこっちには依頼品が残ってるわけだし、とハボックは笑みを浮かべる。だが、次にロイが口にした言葉にハボックの顔から笑みが消えた。 「死んでるぞ、その男」 「────えっ?」 「遺体で発見された。顔も判らんほど酷い有様だったが、唯一所持品の指輪が見つかってな」 それがこれだとロイは写真を指で叩く。ハボックをじっと見つめてロイが言った。 「まだ素っ惚ける気か?」 そう言われてハボックはガシガシと頭を掻く。どうしようかと迷うように煙草を吸い込んでは吐き出すを数回繰り返してから言った。 「コンラッドって名乗ってたっスけどね。偽名かもしれない、確かめた訳じゃねぇし。後は連絡先の電話番号しか知らないっスけど、それはもう繋がらなくなってたっス」 大して役に立たない情報っしょ?とハボックが苦笑する。聞いたばかりのそれを眉を顰めて心の中で繰り返したロイは、ふと思いついて言った。 「依頼品を持っていると言ったな。出せ」 「はあっ?冗談っしょ」 「何故だ?お前にはもう必要のないものだろう?依頼人は死んでる、渡す相手のいない代物だ。持っていても煩わしいばかりだろう?私が貰ってやる」 そう言って手を差し出してくるロイをハボックは呆気にとられたように見つめる。それから思い切り顔を顰めて言った。 「うっわーッ!なにそのオレ様な物言い!だから軍人なんて碌なもんじゃねぇんスよ!」 「なんだと!」 ロイはムッと目を吊り上げてハボックを睨む。鋭い眼光を物ともせずハボックは椅子の背に体を預けて腕を組むと言った。 「嫌っスよ。どうしてアンタに渡さなきゃなんないんス?」 「これは殺人事件だ。それも尋常じゃない。捜査に協力するのは市民の義務だろう?」 「そんな義務、聞いたことねぇっスよ」 ハボックはピシャリと答えて肩を竦める。 「とにかくこれはオレのもんス。アンタに渡す義務はねぇ」 「ハボック」 ロイは嫌だと言い張るハボックを睨むと低い声で言った。 「力付くで出させることも出来るんだぞ?」 「噂の焔で?でも、そう言うこと出来る人じゃねぇっしょ、アンタ」 「ッ」 ニッと笑って言うハボックをロイは悔しそうに睨む。そんなロイを面白そうに見つめ返していたハボックは、ポンと手を叩いて言った。 「ああ、そうだ。だったらアンタがオレに依頼したらどうっス?捜査への協力依頼。勿論金は貰いますけど。────ああ、それと、アンタからのキスもつけて」 「────なんだと?」 「依頼料とアンタのキス一つ。そしたら捜査に協力してもいいっス」 「────ふざけんなッッ!!」 ニヤリと笑うハボックに、ロイは大声と共にバンッとテーブルを叩く。 「依頼料はともかくなんで、キッ、キス……ッッ!!」 真っ赤な顔で睨んでくるロイにハボックは楽しげに笑う。 「まあ、金だけでもいいっスけどね。その場合依頼料は一億センズっスから」 「いっ……!」 とんでもない金額に目を剥くロイにハボックは手を伸ばすと紅く染まった頬を撫でた。 「アンタがキスしてくれたら百万センズにまけてあげます。嬉しいっしょ?たかだかキス一つにそんな値段付けて貰って」 「ふ、ふ、ふ、ふざけるな……ッ」 「ふざけてなんてないっスよ?まあ、心の準備もあるでしょうから今すぐとは言わねぇっスけど」 ハボックは楽しそうに言うとグラスを手に取り残っていた酒を呷る。ぬるくなったそれに顔を顰めたハボックは立ち上がって言った。 「決めたら“K”に来て下さい。あ、金は後でもいいっスよ?前金はアンタのキスだけで。んじゃ、オレはこれで」 「あっ、おい!」 「だって、オレが目の前にいたら決心もつけ辛いっしょ?────あ、それともどんなキスならオッケーか、やってあげましょうか?」 そう言う男からロイは椅子から落ちそうになるほど勢いよく身を引く。そのあまりにあからさまな態度にハボックはゲラゲラと笑った。 「やっぱアンタ可愛いっス。キス、楽しみにしてるっスから」 ハボックはそう言うとロイをおいて店を出ていってしまう。 「ア、アイツ……ッッ」 真っ赤な顔でハボックが出ていった先を見つめていたロイは、残った肉に手を伸ばすとやけくそのように噛みついたのだった。 |
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