| FLARE BLUE 第十三章 |
| 「隠れ家?お前、何か怪しげな事をしてるんじゃ────」 「やだなぁ、違うっスよ。言葉の綾ですってば」 ビールのグラスを手に眉を顰めるロイにハボックは苦笑する。グラスを持っていない方の手で店の中を指し示してハボックは言った。 「隠れ家みたいっしょ?ここ。一人で考え事したい時なんかにくるんスよ。オレがここに来るの知ってんの、殆どいないんじゃないかな」 だから隠れ家、と笑みを浮かべるハボックにロイは何故だかドキリとする。跳ねた心臓を誤魔化すようにビールを一気にクーッと煽れば、ハボックが目を丸くしてパチパチと手を叩いた。 「いい飲みっぷりっスね。平気っスか?」 「どういう意味だ?」 「いや、あんまり酒が強そうに思わなかったから」 一瞬心情を読まれたかとギクリとしながら尋ねたが、どうやらそうではなかったことに内心安心して、ロイはグラスをテーブルに置いた。 「適当に頼んじゃいますね。あと、追加の酒も」 ハボックはそう言うとウェイターを呼んで注文する。ウェイターと話す唇に視線が吸い寄せられて、不意に交わしたキスを思い出すと同時にハボックがこっちを見たのに、ロイは慌てて視線を落とした。 「……なに?」 「べ、別にっ」 不思議そうに尋ねられても答えようがなく、ロイは吐き捨てるように答えてグラスに手を伸ばす。飲もうとして空であることに気づき、困ったように視線をさまよわせた。そうする間にも空色の瞳が己を見つめているのを感じて、心臓が不規則に跳ねてしまう事にロイは狼狽える。 (なんでこんなにドキドキしてるんだっ?そもそも無理矢理キスされて怒ってる筈だろうっ?おかしい、おかしいぞ、私はっ) こんな経験はこれまで全く覚えがない。どうしようとテーブルを睨んでいれば、ウェイターが元気な声と共に注文したものを運んできて、ロイはホッと息をついた。 「いつも外でメシ食ってるんスか?」 「え……?いや、そうでもない。普段会食が多いからそれ以外は家で食べるようにしている」 酒のグラスに手を伸ばし口をつければ聞こえてきた声に、ロイは上目遣いに向かいの男を見てそう答える。 「へぇ、自炊してるんスか」 「まあな。大概はパンとチーズとワインだが」 一瞬感心したように言ったハボックは、返ってきた答えに眉を顰めた。 「それは自炊って言わねぇっス。つか、会食以外はそれって、だからアンタ軍人のくせにそんなヒョロヒョロしてるんスよ」 「ヒョロヒョロ?失礼な奴だな」 ロイはハボックの言葉にムッとして目を吊り上げる。軍服の上着を脱ぎ、シャツの袖を捲って突き出した腕をムンと力を込めて曲げて見せた。 「ちゃんと鍛えてるんだ。着痩せしてみえるだけで筋肉だって────」 「細ッ!!アンタ、本当に軍人?」 筋肉を主張するロイの言葉を遮って、ハボックが素っ頓狂な声を上げる。手を伸ばしてあるかないかの力こぶをさすってくるハボックの手を振り払って、ロイはハボックを睨んだ。 「ホントに失礼な奴だなッ!」 「ああ、いいからいいから。ほら、どんどん食って。ここの旨いんスよ。食ったら筋肉着くから────たぶん」 ハボックは言って大皿に盛られた料理を取り分けロイの前に置く。唇を突き出してハボックを睨んでいたロイは、だが鼻孔を擽るいい匂いに顰めっ面を引っ込めて差し出された料理に目を向けた。 「旨いっスよ、ホントに」 そう言うハボックをチラリと見て、ロイはパリパリに焼いた肉をフォークで突き刺す。パクリと口に運んで、ロイは口の中に広がる肉汁に目を見開いた。 「旨い」 「でしょ?」 素直に賛辞の言葉を口にすればハボックがニッコリと笑う。次々と注ぎ分けられる料理を口にするロイに、ハボックが煙草の煙を吐き出して言った。 「まあ、とにかく今日はワインとパンをやめてくれて良かった。一緒に食事出来て嬉しいっスよ」 そんな風に言うハボックを、ロイは食事の手を止めて見つめる。 「お前はいつも外でこうして食べているのか?その……誰かと一緒に?」 何となくそう言ってしまってから、問いの後半は必要なかった事にロイは気づいた。だが、一度口にしてしまった言葉を引っ込める訳にもいかず視線を逸らすロイを、ハボックは面白そうに見つめる。 「まあ、仲間と一緒にメシ食いにいくことはありますけど、オレは結構自炊もしますね。今日はちょっと景気づけに旨いもん食いたかったんで」 「景気づけ?」 この男でもそんな風に思うことがあるのかと、意外そうにロイが見つめればハボックが苦笑した。 「ちょっと仕事で困ったことがあったもんで」 「そう言えばお前、どんな仕事をしてるんだ?」 ハボックの言葉にロイはさりげなく尋ねてみる。ハボックはサラダを口に運んでワシャワシャと野菜を噛んで答えた。 「んー、まあ言うなれば何でも屋っスね。頼まれれば大概のことはやるっスよ」 「今は?」 困ったことがあると言った仕事とはなんだろうと、興味を駆られてロイは聞く。答えないかとも思ったが、ハボックは眉を寄せて答えた。 「頼まれた物を手に入れたのはいいんスけど、肝心の依頼主と連絡がとれなくなっちまったんスよ。まったく、あの指輪オヤジ。いらなくなったんなら要らないって連絡くらい寄越せっての」 余程うんざりしていたのだろう、そう言うハボックの言葉をロイは「ふぅん」と聞いてグラスに手を伸ばす。グラスに口をつけたロイは、たった今聞いた言葉のどこかに引っかかるものを感じて動きを止めた。 「────指輪オヤジ?」 「え?ええ、そうっス。依頼主の男、変わったデザインの指輪してたんスよ」 ロイの言葉を聞き留めてハボックが言う。コクンとアルコールを喉に流し込んだロイは、次の瞬間乱暴にグラスを置き懐に手を突っ込んだ。 「指輪ってもしかして」 ロイはそう言いながら取り出した写真をハボックの前に置いた。 |
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