| FLARE BLUE 第十一章 |
| 「大佐、遺留品届きましたよ」 コンコンと響くノックの音に答えれば、ブレダが言いながら入ってくる。ブレダが近づいてくるのを待ちきれない様子でロイは椅子から立ち上がった。 「なんだった?」 身元に繋がるものだといいと思いながらロイが尋ねる。ブレダは机に近づくと手にしていた袋を置いた。 「これです」 そう言うブレダをチラリと見て、ロイは袋に手を伸ばす。手のひらの上で逆さにすれば、コロリと転がり出た物を見て目を見開いた。 「指輪?」 ロイは呟いて指輪を表から眺め裏から見つめる。装飾品というにはあまり美しくない、どちらかと言えば不気味とさえ言えるその指輪を見て、ロイは眉を顰めた。 「誰の持ち物かは判ったのか?」 「今、遺体をもう一度よく調べさせてます」 「血が付いてるな」 ロイは指輪の内側がどす黒く汚れているのを見て呟く。 「血液の鑑定をさせろ。ああ、その前に写真を撮っておけよ」 「アイ・サー」 ブレダは答えるとロイから指輪を受け取り足早に執務室を出ていった。 「とりあえずは写真を手がかりに聞き込みか」 身元が判るにはなかなかに時間がかかりそうだ。ロイは一つため息をつくと抽斗の中から折り畳んだ紙を取り出し、描かれた陣を見つめた。 「ああ?んだよっ、どういうことだ?」 ハボックは耳から離した受話器を睨んで呟く。苛立たしげな様子で戻ってきたハボックに、バーテンが尋ねた。 「電話、繋がったかい?」 「使えなくなってた」 「えっ?」 最初の内は何度掛けても呼び出し音が響くばかりで受話器が上がる気配のなかった番号に再度掛けてみれば、聞こえてきたのは呼び出し音ではなく「この電話は現在使われておりません」のメッセージ。ハボックはスツールに斜めに腰掛け、カウンターについた肘に体を預けて取り出した煙草を咥えた。 「くっそ……、参ったな」 こうなってしまっては正直どうしようもない。ハボックはポケットの中でブレスレットをチャラチャラと言わせて煙草の煙を吐き出した。 なにか事情があって依頼を打ち切ったのかもしれない。だが、それならそうと連絡があってもいいはずで、そもそも大金を積んで盗ってこさせた物を受け取らないなどどう考えてもおかしかった。 「…………捨てた方がいいかも」 「えっ?」 ボソリと呟いた言葉を聞き咎めて、バーテンがハボックを見る。 「捨てるって、いいのか?依頼品だろう?」 「取りに来ない、連絡は取れない。結構な大金ふっかけられてんだ、おかしいだろ?」 真っ当な依頼ならともかく、人様の家に忍び込んでそこから物を盗ってこいなどまともな依頼ではない。基本、人殺しやレイプでなければ少々やばそうな仕事も断りはしないが、だからといって好んで我が身を危険に晒す趣味はなく、大金を要求するのはそうまでしてどうしても欲しい代物か確かめる意味もあるのだった。 「高いってごねたけど、それでもオレが言うままの金額を払った。ってことは依頼人にとってこれはそれだけ価値があるって事。裏返せばそれだけヤバいもんだってことだ」 そんな物をいつまでも持っていたら、もしかしたら自分の身に危険が及ぶかもしれない。 「好き好んで危ない橋を渡る気はねぇって」 「もう少し待ってみたら?連絡があった時に手元になかったら拙いんじゃないの?金、貰ってるんだし」 「うー、金返したら終わりになんないかな」 受け取った金はまだ手つかずだ。返せと言われたら違約料を上乗せして払う位の蓄えもあった。 「くそーッ、指輪親父め。とっとと連絡寄越せっての」 ハボックは口汚く依頼人を罵ると、グラスを掴みググーッと酒を飲み干した。 「大佐、血液鑑定の結果が出ました」 あまり進展の見られない捜査の合間に溜まった書類を片づけていれば、執務室に入ってきたブレダが言う。その声に書類から顔を上げたロイに、ブレダは鑑定結果の書類を差し出した。 「あの指輪、被害者のものみたいです。指輪に付着していた血液と遺体の血液型が一致しました」 「そうか」 「今、指輪の写真を焼き増して、部下たちに配ったとこです」 そう言ってブレダは指輪を写した写真をロイの前に置く。 「もう時間が遅いんで、今日はあんまり聞き込み進まないかもですけど」 ブレダの言葉に窓の外へ目をやったロイは、もうすっかりと日が落ちている事に気づいた。 「元々身元が判るのに時間がかかるだろうと思っていたんだ。焦らずいくしかないだろう」 「そうですね」 ロイの言葉にブレダはため息混じりに答える。 「今日はもう適当なところで切り上げさせて構わん」 「判りました。大佐は?」 「生憎書類は待ってくれないんだ」 いっそもっと捜査が慌ただしくなれば書類を放り出す理由も出来るものをと顔を顰めるロイにブレダは苦笑した。 「まあ、頑張ってください」 「あまり頑張りたくないがな。────写真は貰っておくぞ」 「どうぞ」 ブレダは頷くと執務室を出ていく。ロイは机に置かれた写真を手に取り暫く眺めていたが、ひとつため息をつくと写真を胸のポケットに入れた。 |
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