| 初回衝撃(first impact) 第六章 |
| 「離してくださいッ!誰かッ!!誰か来てッッ!!」 細い路地に入っていけば今度ははっきりと助けを求める声がする。数歩前を行くロイに続いて角を曲がったハボックの視界に、数人の男が女性を取り囲んでいる様子が飛び込んできた。 「おや、これはこれは」 誰がどう見てもはっきりとした状況にロイがわざとらしく目を見開く。突然飛び込んできた二人の軍人にギョッとして動きを止めた当事者たちに向かって、ロイはにっこりと笑った。 「どうかされましたか?今悲鳴が聞こえましたが」 爽やかな笑顔を振りまく黒髪の美丈夫をジロジロと見て、男たちは顔を見合わせて 「別にどうもされねぇよ。余計なことに首突っ込むんじゃねぇよ」 「こんなところで命を危険に晒してまで点数稼ぎする必要ねぇだろ、軍の兄ちゃんよ」 「それとも女の前でエエカッコしたいか?」 「なんなら俺たちと一緒に楽しむかい?」 嘲るように言って一斉にドッと笑う。半歩後ろでそれを聞いていたハボックがロイに尋ねた。 「どうするんスか?」 こんな事はここでは日常茶飯時だろうし、正直面倒は避けて通りたい。ほっとけば?という言葉をハボックが口にする前に、ロイが言った。 「助けが必要ですか?」 「助けてくださいッ!!」 にこやかに尋ねられて女性が即答する。掴まれた細い手首をなんとか振り解こうとしているのを見て頷いたロイが、ハボックを振り向いた。 「だそうだ」 「……は?」 「彼女を助けてあげたまえ」 にっこりと笑って言うロイをポカンとして見つめたハボックは、次の瞬間垂れた目を吊り上げた。 「なんでオレがっ」 「困っている市民を助けるのは当然だろう?」 「首突っ込んだのはアンタっしょ!」 「お前、私の護衛官だろう?護衛対象をわざわざ危険に晒すのか?」 そう言われてハボックは男たちを見る。ざっと見た感じでは拳銃の類を持っている様子はなく、精々ナイフ程度と思われた。 「大して危険な奴らとは思えないっスけど?自信ないなら錬金術でも使ったらどうです?」 半ば嘲るように言うハボックをロイはじっと見つめる。真っ直ぐに見つめてくる黒曜石にハボックが眉を顰めた時、ロイがニッと笑った。 「そうか、腕に自信がないなら仕方ない。私がやろう」 「ッ?!ちょっと待てよッ!いつオレが自信ないなんて言ったっスかッ?」 「だが、嫌なのだろう?」 自信がないからなんだろう、仕方ないなと男たちに近づこうとするロイの腕をハボックは掴んだ。 「アンタは下がっててください」 ムッと唇の端を下げて言うハボックをロイは見る。それから笑みを浮かべて頷いた。 「判った。ではお前に任せる」 そう言って半歩下がるロイをおいて、ハボックは男たちに足を向ける。二人のやりとりをポカンとして見ていた男たちがハッとして身構えた。 「ああ?なんだ、お前!首突っ込むってのかっ?」 「別に突っ込みたくて突っ込むんじゃねぇっての」 チッと舌打ちしてハボックはボソリと呟く。 「まあ、それこそちょっとしたガス抜きだな」 それでもそう呟きながらハボックはなんの用心もなく男たちに近づいていった。 「首突っ込むなって言った筈だぜッ!」 「構わねぇ、コイツからやっちまえッ!!」 女性の腕を掴んでいる一人を除いて、殺気だった男たちがハボックを取り囲む。ハボックはコキコキと首を鳴らして男たちを見回した。 「いつでもいいぜ?」 構えるでなく馬鹿にした調子でそう言えばカッとなった男たちが一斉に飛びかかってきた。殴りかかってきた拳が当たる寸前、ハボックは体を僅かに動かしてその拳をよける。的を外してよろめく男の腕を掴んだハボックは、男の体を思い切り地面に叩きつけた。 「グハッ!!」 背中を強かに叩きつけられビクビクと痙攣して動かなくなった男から手を離すと、今度は自分から一番近くの男に殴りかかる。ビュッと突き出された重い拳に腹を抉られて、男は殴られた勢いのまま後方へと吹き飛んだ。 「こっ、コイツッ!!」 「ふざけやがってッ!!」 あっと言う間に仲間が叩きのめされて、残った男たちに動揺が走る。手に手にナイフを構えるのを見て、ハボックが馬鹿にしたように肩を竦めた。 「さっさと逃げた方が痛い思いしなくて済むと思うけど?」 「うるせぇッ!!」 「やっちまえッ!!」 忠告も聞かず襲いかかってくる男たちの攻撃を、ハボックは僅かな動きでかわす。突き出されたナイフを握る手に咥えていた煙草を押しつければ、男が悲鳴を上げてナイフを取り落とした。 「ギャアッ!!」 「貴様ァッ!!」 手を抱えて蹲る仲間を見て、もう一人の男が滅茶苦茶にナイフを振り回して近づいてくる。ハボックは軽いステップで攻撃をかわし、ナイフを持った手を掴んだ。掴んだ手を思い切り曲がるべきでない方向へと捻るとバキッと嫌な音が響く。絶叫を上げる男の手を投げ捨てるように離した時、女性の悲鳴と男の喚き声が聞こえた。 「てめぇ、それ以上してみろッ!女が死ぬぞッ!!」 その声にハボックが振り向けば、女性の体に腕を回しその喉元にナイフを押し当てる男の姿が目に入る。ハボックは無表情に男を見つめると肩を竦めた。 「別に構わないけど?そんな女知らねぇし」 「なん……ッ?!」 思っていたのとまるで違うハボックの反応に男が目を剥き女性が息を飲む。ハボックはゆっくりと男に近づきながら言った。 「オレは売られた喧嘩買っただけだし。ガスも抜けきってねぇしな」 誰に売られた喧嘩とは言わずにハボックは男を見つめる。咥えた煙草を指に挟みフーッと煙を吐き出して唇に戻した。 「弱過ぎだ、全然殴り足りねぇ」 そう言ったハボックの足の下でザリと音が鳴る。 「ボコらせろ」 「ヒ……ッ」 ニッとハボックが笑うのを見て、男が震える手でナイフを女性の首に押しつけた。白い肌に触れた鋭い切っ先がまさに食い込もうとした時。 「その人を離して貰おうか」 低く言う声が聞こえたと思うとシュッと空を切る音と共に繰り出された拳が男の頬にめり込む。当然のごとく吹き飛んだ男が路地に積まれた木箱の山に突っ込んで昏倒したのを見やって、ロイはフンと鼻を鳴らした。 「アンタ……」 殆どモーションもなしに凄まじいパンチを繰り出したロイをハボックが目を丸くして見つめる。そんなハボックにロイは近づくとその金色の頭を拳で殴った。 「イテェッ!!なにすんだッ、テメェッ!!」 「私は彼女を助けろと言ったんだぞ!別に構わないとはなんだッ!」 「んだよっ、大体アンタ自分で助けられるんなら自分で────テッ!!」 何か言おうとするハボックの頭をもう一度拳で殴って黙らせたロイは、女性に向かってにっこりと笑う。 「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」 「は、はい……」 「よかった、家までお送りしましょう」 怯えきった女性に優しく笑いかけて歩き出そうとしながら、ロイは肩越しに振り向いて言った。 「行くぞ、ハボック」 そのままにこやかに女性に話しかけながら歩き出すロイをハボックはムゥと唇を歪めて睨みつける。 「クソッたれ!」 それでも呻くように言うと、ハボックは二人の後について歩きだした。 |
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