千年樹 〜eternal green〜 (第四章)


 家に帰るとロイは寝室へと向かい、ハボックの体をベッドに横たえる。靴を脱がせてやると、ロイは階下のキッチンへ行き水を注いだグラスを持ってきた。寝室の扉を開けて中に入ると、ハボックが横たわったまま天井を見上げているのに気づいて声をかける。
「少し落ち着いたか?」
 そう言って手を貸して体を起こすのを手伝ってやり、手にしたグラスを渡してやる。ハボックはグラスを受け取ったものの口を付けるでなくただぼんやりと水の表面を見つめているだけだった。ロイは暫くそんなハボックを見つめていたがゆっくりと口を開いた。
「さっきお前が叫んでいたのはヒューズのことか?」
 そう言えばハボックの体がピクリと震える。ヒューズは東方司令部にちょくちょく顔を出していたし、ハボックともよく飲みに出かけたりしていたようだ。それもあってヒューズの死はハボックにも大きな衝撃を与えたのだろう。
 ロイがそう考えて更に言葉を重ねようとした、その時。
「バチが当たったんだ…」
「え?」
「赦されないことだって判ってたのに、やめなかったから、だから罰が当たったんだ…」
「ハボック?」
 グラスを握り締めたまま囁くように言うハボックをロイは目を見開いて見つめる。
「何言って…」
「中佐には奥さんも子供もいたのに…なのにオレがいつまでも諦めなかったから…だから」
「おい、ハボック」
 ロイがそこにいることすら忘れてしまったようにハボックは言葉を続ける。
「中佐は誰よりも家族を愛してたのに、でもオレが中佐から離れなかったから、中佐に家族を裏切らせたから、グレイシアさんだってエリシアちゃんだって中佐のこと大事だったのに、オレにだってあんなによくしてくれたのにオレが中佐を諦め切れなかったばっかりに中佐に二人を裏切らせてっっ」
「ハボックっ?!」
「オレの所為だオレが殺したんだ…オレが諦めなかったから中佐に家族裏切らせてだからバチがあたったんだ…… オレが中佐をころしたんだっ中佐が死んだのはオレのせいだっオレさえいなければ中佐はあんな目にあわずにすんだんだっっ」
「ハボックっっ!!」
 ロイは喚き続けるハボックの肩を掴むと乱暴に揺さぶった。
「しっかりしろ、ヒューズが死んだのはお前の所為なんかじゃ――」
「どうしてオレじゃないんだっ罰を与えるのなら中佐じゃないオレが与えられるべきなんだ…中佐は悪くないのに中佐はオレなんて愛してなかったんだから…オレが中佐から離れられなかっただけなのに…なんでちゅうさが死んでオレは生きてるんだっオレが死ねばよかったのにっっ」
「ハボックっっ!!」
 ロイの手を振りほどこうともがくハボックの手からグラスが飛んで粉々に砕け散る。だが、その割れる音すら今のハボックの耳には届いていないようだった。ロイは喚き続けるハボックの体をベッドに押さえつける。そうして血を吐くような悲鳴をそれ以上聞いていることが出来ず、ハボックの唇をロイは己のそれで塞いだ。
「んっ…んぅっ」
 もがいていた体から力が抜けて、ロイはようやく唇を離す。はらはらと涙を零しながら宙を見据えるハボックの姿に胸が締め付けられるような気がして、ロイはハボックの涙を唇で拭った。
「泣くな、ハボック、泣くな」
「オレがころしたんだ…」
「お前の所為じゃない、だから泣くな」
 ロイはハボックの名を呼びながら何度も口付ける。やがて、ハボックの腕がロイの首に回り二人は深く口付けあった。ロイはハボックの首筋に舌を滑らせ、見にまとうものを剥ぎ取っていく。全て脱がせてしまうと、自分も服を落としハボックに圧し掛かった。
「ハボック…」
 金色の髪を優しく撫で、涙の零れる頬に口付ける。白い肌に時折印を刻みながら舌を這わせ、胸の突起に唇を寄せた。舌を絡ませ、ぷくりと立ち上がったそれを潰すようにこね回す。ハボックの唇から熱い吐息が零れるのを聞きながら、何度も何度も舌を這わせた。ハボックの脚をぐいと開けば、その中心は既に熱くそそり立ち先走りの蜜が零れている。ロイはその先端にチュッと口付けるとそっとくわえ込んだ。
「あっ…」
 びくっと震えて脚を閉じようとするのを赦さず、ロイはハボック自身に舌を這わせる。くれを辿り先端の柔らかい部分を含むと舌先でぐりぐりと小さな穴を押し開いた。じゅぶじゅぶと唇で擦り上げれば、ハボックの体が小刻みに震える。蜜を含んでたっぷりと重くなった袋を揉みしだいて、ロイはハボックをきつく吸い上げた。
「あああああっっ」
 ハボックの唇から嬌声があがり、ロイの口の中に青臭い液体が吐き出される。ロイはそれを全て飲み干すと体を起こしてハボックの顔を見つめた。瞳を閉じて荒い息を零しているハボックは妙に幼くて、ロイは胸が締め付けられる。ロイはハボックの脚をぐっと持ち上げるとその奥まった蕾を目の前に曝した。ひくつくそこに舌を差し入れるとハボックの体が震える。唾液を流し込むようにして解すと、ロイは滾る自身を押し当てた。
「ハボ…」
 名を呼べばハボックの瞳がロイを見上げる。その綺麗な空色を見つめながらロイはハボックの中へと自身を埋めていった。ずぶずぶと押し入られて、ハボックの体が無意識に強張る。宥めるようにキスを落としながらロイは全て埋めてしまうと、ゆっくりと体を揺すりあげた。
「あっ…あん…んぅっ」
 ハボックの唇から熱い吐息が零れ、それに煽られるようにロイの動きが激しさを増す。ロイはハボックの脚を大きく開かせると乱暴に最奥を何度も突き上げた。
「ひあっ…ああっ…んんっ」
 ぐちゅっぐちゅっという濡れた音が響きハボックの甘い喘ぎが流れる。びくびくとその体が震えたと思うと、ハボックの中心から熱が迸った。
「あああっっ」
 快感に震えるその体を容赦なく突き上げればハボックは悲鳴を上げて体を仰け反らせた。
「ハボック…ハボ…」
 熱に浮かされたように囁けばロイの背に回されたハボックの手がしがみ付いて来る。
「あっあっああっ」
 ロイに揺さぶられるままに熱を吐き出すハボックの最奥を貫いて、ロイは滾る飛沫を吐き出していった。


 ゆっくりと浮上した意識にぼんやりと目を開ければ、焦点が合わないほど近いところにロイの顔があった。ハボックは数度瞬いて、昨夜からのことを思い起こす。ヒューズの死に荒れ狂った自分を、ロイが抱きしめて受け止めてくれたことを思い出して、ハボックは唇を噛み締めた。その時そっと髪を撫でられて、ハボックはハッとしてロイを見つめる。じっと見つめてくる空色の瞳に、ロイはゆっくりと口を開いた。
「ハボック、お前とヒューズは…」
「軽蔑するでしょ、たいさ。奥さんも子供もいるのに…」
 自嘲して笑うハボックにロイは胸が苦しくなる。
「オレが中佐を死なせたんだ…」
「それは違うっ」
「あの日、オレがセントラルに行っていれば…大事な話があるって言ってた。きっとあの時中佐はもうこんな関係は終わりにしようって言うつもりだったんだ。あの時別れていれば、あんな酷い運命を中佐のところに呼び寄せなくてすんだのに…」
「…ハボック」
「オレが死ねばよかった」
「ハボックっ」
 声を荒げるロイをハボックは見つめた。そうしてうっすらと笑うと言う。
「好きだった。ずっと、中佐のこと。オレのこと、本気で愛してくれなくてもよかった。諦めなくちゃって思ってでも諦められなくて…グレイシアさんやエリシアちゃんのこと裏切ってるって判ってた…でも…」
 愛してる。
 声にならずに吐き出されたヒューズへの想いをこめた言葉に、ロイはなぜか自分の心が抉り取られたような気がした。力なく伏せられた瞳に唇を寄せて、ロイはハボックを抱きしめる。そうして二人は何も言わず、ただ互いを抱きしめあったのだった。


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