千年樹 〜eternal green〜 (第二章) |
| ずるりと抜かれる感触にハボックは体を震わせた。ヒューズはゆっくりと立ち上がるとしどけなく床に座り込んだハボックに言う。 「シャワー借りるぞ」 そう言ってハボックを置いてシャワールームに行ってしまった。微かに聞こえてくる水音を聞きながら、ハボックはぼんやりと天井を見つめる。自分がヒューズを愛しているように、ヒューズが自分を愛してくれてなどいないことはよく判っていた筈だった。それでもこんな風に抱かれた後は心がキリキリと痛む。愛してくれなくてもいい、抱いてくれるだけでもと想う反面、一度でいいから愛を囁いてくれたら、きっと救われるだろうにと考えてハボックは緩く首を振った。これは裏切り行為だ。セントラルで彼の帰りを待っている優しい女性と可愛らしい子供に対する最低の行為だ。そうは判っていてもハボックはヒューズとの関係を断ち切れない。これ以上、自分がヒューズに何かを望むなんて、赦されることではないのだ。ハボックはゆっくりと立ち上がるとヒューズと交代にシャワーを使うべく浴室へと向かったのだった。 「お口にあったかしら」 「はい、すげぇ旨かったっス」 グレイシアの言葉に素直に頷くハボックに、ヒューズが豪快に笑う。 「そうだろうっ、俺の嫁さんが作る料理は最高だからな。感謝しろよ、ハボック」 「そっスね」 頷いてグレイシアに改めて礼を言うハボックの手を、下から引いてくる小さな手に、ハボックは自分を見上げてくるエリシアを見つめた。 「どした、エリシア」 「ねえ、ジャン。今日は泊まっていくんでしょう?」 そう聞かれてハボックは緩く首を振った。 「ホテル、とってるから。帰るよ」 そう言えばエリシアが顔をくしゃくしゃにする。 「どうしてぇ、泊まっていって!ねぇ、ママ、ジャン、泊まっていってもいいよね?」 そう言うエリシアにグレイシアは頷いてハボックを見る。 「ハボックさん、よろしかったら泊まっていって。まだホテルにはチェックインしてないんでしょう」 出張先のセントラルで夕食に呼ばれたハボックが玄関先に置いておいたバッグを想い描いてグレイシアが言った。 「はあ、まあそうっスけど」 「だったら、ね?いいわよね、あなた」 「ああ、泊まっていけよ、ハボック」 「やったぁ、ジャン、ご本読んで!」 喜んで纏わりついて来る小さな体を抱き上げてハボックは笑う。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 ハボックがそう答えたとき、リビングの片隅に置かれた電話がリンと鳴った。ぱたぱたと軽い足音を立ててリビングへと入っていったグレイシアが受話器をとって話し出す。 「はい、あら、サラ。こんばんは、どうしたの?ええ…。まあ、それは大変」 暫く話していたグレイシアは受話器を置くとヒューズに向かって言った。 「サラのお母様が階段から落ちて怪我をしたそうなの。病院に連れて行く間、赤ちゃんを見ていて欲しいって」 「階段から?大丈夫なのか?」 「腕の骨を折ったみたい。病院には赤ちゃんを連れて行けないからって」 「そりゃそうだな。こっちは大丈夫だから手伝いにいってやれよ」 ヒューズの言葉に頷くとグレイシアはハボックを見る。 「ごめんなさい、ハボックさん。こんな事になってしまって」 「構わないっスよ。エリシアちゃんはオレが見てますから、行ってきてください」 ハボックは抱き上げたエリシアの顔を覗き込んで言う。 「な、エリシア。お留守番できるよな」 「うんっ!ジャンがいるから大丈夫よ、ママ」 ハボックの言葉に大きく頷くエリシアに笑ってグレイシアは急いで身支度を始める。必要なものだけ手にすると玄関先で見送るヒューズに言った。 「多分今夜は帰ってこられないと思うわ。明日あなたが出勤する前には戻ってくるから」 「ああ、いざとなったら少しくらい遅くなっても構わないよ。きをつけてな、グレイシア。サラにお見舞い言っといてくれ」 「ええ、じゃあ、ハボックさん、申し訳ないけど」 「ママ、いってらっしゃい」 そう言って手を振るエリシアに軽くキスをするとグレイシアは出て行く。それを見送ってハボックはエリシアを見ると言った。 「エリシア、晩御飯の後片付けをしなくちゃ。手伝ってくれるかい?」 「うんっ!お手伝いするっ!」 「頼むよ、エリシア」 ハボックはそう言うとエリシアの手を引いて中へと入っていく。ヒューズはそんな二人を目を細めて見つめていた。 「もう、寝たのか?」 「ええ、本読んでるうちにいつの間にか」 ハボックはそう答えると開いていた絵本を閉じて枕もとのテーブルに置いた。そうして音を立てないようにして立ち上がるとベッドサイドの明かりを消してヒューズを見る。 「オレ、ホテルに行きますんで」 「どうして?泊まるって事にしたんだろう」 「泊まれるわけないでしょ。もともとエリシアちゃんが寝たら帰るつもりでしたから」 ハボックはそう言って廊下から差し込む光の中、ヒューズを見つめた。 「ホントは食事も断ろうと思ってたくらいなんスよ。でも、もうエリシアちゃんも寝たし」 帰ります、とヒューズの脇を通って出て行こうとするハボックの腕をヒューズは掴む。 「泊まっていくって言ったろう」 「泊まれませんよ。オレ、そんなに神経図太くないっスから」 「どういう意味だ」 常磐色の瞳を物騒に細めてそう呟くヒューズを睨みつけてハボックは言った。 「大体アンタ、どういう神経してんです?オレを家に呼ぶなんて。どんな顔してグレイシアさんに会えばいいのか、オレがどれだけ悩んだと思って…っ」 「そういうわりにはいつもと変わらなかったな」 そう言われてハボックはヒューズの手を乱暴に振りほどこうとする。だがガッシリと掴まれた腕は振りほどくことが出来なかった。 「離してください…っ」 「いやだね」 小声でキッパリというハボックに、これまたきっぱりと言い返すヒューズをハボックは目を見開いて見つめる。ヒューズはハボックを引き寄せると強引に唇を塞いだ。 「…っっ?!」 驚いて逃れようとするハボックをヒューズはエリシアの眠るベッドの足元に押さえつける。後ろ手に腕を捻り上げて身動きを封じると、ヒューズはハボックのズボンに手をかけた。 「ちゅうさっっ!!」 「大きな声出すなよ、エリシアが起きるだろう」 そう言うとヒューズはハボックのズボンを膝の辺りまで引き摺り下ろしてしまう。あまりの事に息を飲んだハボックのまだ堅く閉ざされた蕾にぐっと指を突き入れた。 「ひうっっ」 思わずあげてしまった声に、ハボックは慌てて唇を噛み締める。ぐちぐちと乱暴にかき回されて、ハボックは涙の滲む目でヒューズを見上げるといった。 「や、めてくださ…ちゅうさっっ」 すぐそこではエリシアが眠っているのだ。それなのにこんなことを仕掛けてくるヒューズがハボックは信じられなかった。 「エリシアちゃんが…っ」 「でかい声出さなきゃ起きやしねぇよ」 ヒューズはそう言うと指を引き抜きそそり立った自身を押しあてる。ぐっと押し付けられて、ハボックは首を振った。 「やだっ…やめて…っ」 ハボックが拒絶の言葉を吐き出した瞬間、ヒューズの熱が押し入ってくる。ずぶずぶと入ってくる塊に、ハボックはあげそうになる悲鳴をシーツに顔を埋めて必死に堪えた。ずりゅずりゅとイヤらしい水音がやけに大きく聞こえる。いつの間にか解放された手で、ハボックはシーツを握り締めると乱暴に突き上げてくるヒューズの動きを受け止めた。 「んっ…くぅっ…」 あげるまいと必死に唇をかみ締めるうち錆びた鉄の匂いが口中に広がる。ガンガンと突き上げられて、もう脚に力が入らなかった。 「ううっ…んあっ…」 ぽろぽろと涙を零しながら必死に声を抑えようとするハボックを、ヒューズは背後から貫きながら、その横顔をじっと見つめる。腰を抱えあげると思い切り奥を突き上げるのと同時にハボックの中へと熱を吐き出した。そうして追うようにして達したハボックの体を抱きしめると、零れる涙をそっと唇で拭う。黙ったままハボックを抱きしめていたヒューズはやがてずるりと己を引き抜くとにやりと笑って言った。 「いつもより興奮したろ、少尉」 そう言えば肩越しに涙の滲む目で睨んでくるハボックの表情をヒューズは愛しげに見つめる。だが。 「サイテーだ、アンタ…」 背後から差し込む廊下の光に、逆光で昏く沈んだヒューズの表情の意味に気づくことなくハボックは吐き捨てるようにそう呟くと、服を整え部屋を出ていってしまった。少しして玄関の扉が開閉する音を聞きながら、ヒューズは部屋の中に立ち尽くしていたのだった。 |
| → 第三章 |
| 第一章 ← |