名前


「ジャン。」
突然そう呼ばれてもハボックは自分が呼ばれているとは気がつかなかった。暫くしてもう一度そう呼ばれ、ハボック
は振り向くと自分の顔を指差す。
「オレ?」
間抜けにもそう聞くハボックにロイは眉を顰めた。
「この部屋にはお前と私しかいないだろうが。」
「いや、確かにそうっスけど。」
今この執務室には確かにロイと自分しかいない。だが、これまでロイは一度も自分のことをファーストネームで
呼んだことなどなかったのだ。
「なんスか、突然。」
気持ち悪りぃ、と体を震わせるハボックにロイはムッとして言った。
「気持ち悪いとはなんだ。せっかく恋人らしくファーストネームで呼んでやったのに。」
「こんなところで恋人気分にならんでください。」
仕事中、とつれないハボックをロイはジトッと見つめていたが席を立ち上がるとソファーで書類の仕分けをしている
ハボックの側に近づく。そうして腰をかがめてハボックの耳元に囁いた。
「ジャン…。」
吐息と一緒に吹き込めば、ハボックが耳を押さえてソファーの端まで飛び退る。一瞬にして真っ赤になったその顔
にロイは悪戯心を刺激されてソファーの上をハボックににじり寄った。
「そんなに驚かなくてもいいだろう、ジャン…。」
「やめてくださいよっ!今まで一度もそんな風に呼ばなかったくせにっ!」
「だったらこれからは呼んでやる。」
そう言って「ジャン」と囁けばハボックは首まで真っ赤になって頭を抱え込む。あまりに過剰な反応に半ば驚いて
ハボックの肩に手をかければ、ビクッと体を震わせて横目でロイを見上げた。
「ジャン?」
「だから名前で呼ばないでって!!」
ハボックはそう言うと視線を落として囁くように言う。
「すっげぇ恥ずかしくてすっげぇゾクゾクする…」
その言葉を聞いたロイは目を見張ったが、その唇が実に楽しそうに弧を描くのに時間はかからなかった。


2007/9/27


→ 「名前その後」 (
ハボロイ・R20)
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ロイハボ・R20)
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ハボロイ・R20)