着せ替え


「なんスか、この服の山。」
宅急便の巨大なダンボールをリビングに運び込まされたハボックは、嬉々として箱の中身を広げるロイにそう尋ねる。
どうみてもロイには大きさが合わないと思われる服を両手で広げて見せるとロイはにっこりと笑った。
「お前の為に買ったんだ。」
「へ?オレ?」
キョトンとするハボックにロイは立ち上がると手にした服をあてがってみる。
「おお、やっぱり思ったとおりよく似合うぞっ」
そう言うととっかえひっかえ服をあてるロイにハボックは苦笑した。
「なんスか、突然。オレってそんなにろくな服持ってないように思えます?」
ちょっぴり傷ついた風に聞くハボックにロイは驚いたように答えた。
「そんなことは言っていないだろう?違うんだ、ほら、この間お前がジャンパーを試着しているのを見てだな、色んな服
 を着せてみたくなったんだよ。」
「色んな服って…オレは着せ替え人形っスか?」
呆れたように言うハボックにロイが言う。
「まあいいだろう?お前の為に選んできたんだ。着てくれないか?」
「そりゃあまあ、別に着るくらいいいっスけど…。」
口ではあまり気乗りのしない風を装いながら、ハボックは内心とても嬉しかった。忙しいロイが自分の為に選んで来て
くれたのだと思えば胸がホンワリと温かくなる。
「うわ、これちょっとガキっぽくないっスか?どっかのアイドルじゃあるまいし。」
「何を言う。こういうのが意外とお前には似合うんだ。」
1枚取り出しては感想を言っていたハボックだったが、ダンボールの底に残っていた数枚の服を見た途端伸ばした手を
ピタリと止めた。ジッと穴が開くほど見つめた後、ギロリとロイを睨む。
「アンタ、この底に入ってるの、なんスか、これっ?!」
「ああ、これか。かわいいだろう?」
そう言ってロイが取り出したのはフリフリのフリルもかわいいメイド服。
「何でメイド…っ!あっ、こっちはナース服!なんだよこれっ、ウサギの耳っ?!」
次々と現れる怪しげな服に悲鳴を上げていたハボックは最後の一枚を手にして眉を顰めた。
「何これ、キモノ?」
「ほら、あれだ。帯を引っ張ってクルクルッとまわして“あ〜れ〜っ”って言うのをやってみたいんだ。」
ニコニコと楽しげにそう言うロイにハボックはふるふると肩を震わせる。
「ハボック?どうし――ドゴワッッ!!」
ハボックに殴られた弾みにリビングの端まで転がったロイを見下ろしてハボックは低い声で言った。
「この…ヘンタイエロオヤジっ!!」
そう言うと出した服を全部ダンボールに放り込みガムテープで封をした上でマジックでデカデカと「汚物」と殴り書く。
両手でガシッと掴んで持ち上げると玄関から外へと放り出した。
「ああっ?!何てことするんだっ?!しかもフツウの服まで全部!!」
「フツウの服って言うことは少なくともあのヘンタイ丸出しの服がフツウじゃないって認識はあるんスね。」
ハボックはロイの頬を両手でうに〜んと引っ張りながら言う。
「ひゃぼ…いひゃい…」
「アンタの服は一切受け取りません。下手に着て“今度はコレ”なんて強請られたら堪んないっスから。」
そう言って手を離せばロイの頬がパチンと音がしそうな勢いでもとに戻った。
「酷い、ハボック。元に戻らなくなったらどうするんだ。」
「しりませんよ。」
まったくもうっとプンプン怒りながらキッチンへと入っていくハボの背中にロイの情けない声がかかる。
「あんまりだ、せっかくお前の為に選んだのに…」
「あのねぇっ!」
「このシャツにはこのズボンがいいだろうとか、蜂蜜色の髪にはこの色が似合うだろうとか一生懸命考えたのに…。」
しくしくしく、と床にへたり込んでいじけるロイにハボックは居心地が悪そうに視線を彷徨わせた。
「大事なお前の為に忙しい中、店を回って選んできたのに〜〜っ」
「ああもうっ、判りましたよっ!!」
ハボックはそう怒鳴ると外へ出てダンボールを拾ってくる。中からあの怪しげな服以外のものを取り出すとロイに言った。
「これでいいでしょう?でもこっちは処分しますからね。」
ハボックはそう言うとでかいビニール袋を持って来てアヤシイオーラを放つ服を詰めてもう一度外へと出してくる。
「…ホントは嬉しかったんスから。ちゃんと素直に礼を言わさせてくださいよ。」
唇を尖らせてそう言うハボックをギュッと抱き締めるとロイが言った。
「すまん、悪ふざけが過ぎたな。お詫びと言っちゃなんだが今夜は新しい服を着て食事に行かないか?」
そう言えば嬉しそうに笑うハボックに笑い返しながら、ロイはごみ置き場に出されたビニール袋をいつ回収しに行くか
頭を巡らせていたのだった。


2007/12/3


→ 「着せ替え その後じゃないけど」
ハボロイ・R20)
→ 「着せ替え その後」
ロイハボ・R20)