平行世界8
 
 
家に寄って当座必要なものだけ持ってホテルにやってきたハボックは通りに面した窓を大きく開ける。広い窓からは暮れ時の最後の陽の光を離すまいとするように、次々と灯りの灯る街並みが見下ろせた。
「なあ、本当にこっちに来ちゃってよかったの?」
ベッドに腰掛けてビリーはハボックに尋ねる。窓から外を見ていたハボックは肩越しに笑うと答えた。
「あ?ああ、いいのいいの。大人気ないことばっかり言う大佐がいけないんだから」
ハボックはそう言うと振り向いて窓の桟に腰を引っ掛ける。ポケットから煙草を取り出すと火をつけて唇の端に咥えた。
「でも、アンタまでこっち来たら拙いんじゃない?俺なら一人で平気だし
「ビリー」
俯きがちにそう言えばハボックがビリーを呼ぶ。体を前に傾げたまま上目遣いに見上げると空色の瞳がビリーを見ていた。
「子供がつまんない遠慮なんてするもんじゃない。それに、オレがビリーと一緒にいたかったんだからいいんだよ」
そう言って優しく笑うハボックの髪が残照を弾いて光る。それを見たビリーはくしゃりと顔を歪めると膝に顔を擦り付けた。
「俺、元の世界に帰れるのかな
そう呟く声は不安に揺れて語尾は涙で掠れてしまう。ハボックは窓から離れるとビリーに近寄っていった。ベッドに腰掛けるビリーの足元に膝立ちになるとその手をそっと取る。俯くビリーの顔を見つめながら言った。
「大丈夫だよ。オレ達も何度か飛ばされたけどちゃんと帰ってこられた。だからビリーも必ず向こうに帰れるよ」
そう言って取った手をポンポンと優しく叩かれて、ビリーの瞳からポロリと涙が零れる。それでも必死に微笑むと言った。
「じゃあまたロイさんにも会えるよねっ」
「勿論」
ハボックは笑い返すとビリーに聞く。
「ビリーはロイが好きなんだね」
「うん。すごい美人だし優しいし、強くてかっこいいし」
ビリーの言葉にハボックは懐かしそうに目を細めた。
「元気してるのかなぁ、ロイもハボも」
「会った事あるの?」
「うん。向こうに帰ったらオレがよろしく言ってたって伝えてよ」
そう言って笑うハボックにビリーは頷く。帰った後のことを当然のように話されればそれは酷く現実味を帯びて聞こえ、ビリーはさっきまでの不安が消えている事に気がついた。そんなビリーに1つ頷くとハボックは立ち上がる。
「メシでも食いに行こうか」
「うん。あ、なんか急に腹が減ってきた」
そう言って腹を押さえるビリーの様子にハボックが笑った。
「何、食べたい?」
「んーと、そうだなぁ
そうやって本当の兄弟のように自然と会話を交わしながら、二人は夕闇に包まれた街へと出かけていったのだった。


2008/05/20


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