平行世界6
 
 
「正直信じろって言われても信じられないって言いたいのは山々なんだけど」
クリスはそう言うとハボックとロイの顔を交互に見る。
「アンタがジャンでなくて、マスタング大佐も別人だってことは嫌になるほど判るのよね」
「すんません」
謝る必要などない筈なのだが何となく罪悪感に駆られてハボックが言った。クリスはクスリと笑うとハボックをしげしげと見る。
「不思議ねぇ、同じパーツなのにどうしてこう、受ける印象が違うのかしら」
「ジャンはオレから見ても可愛いっスからね」
顎を下から指で押し上げるようにして顔を覗き込まれてハボックが苦笑して言えば、クリスが空色の瞳を見開く。
「もしかしてジャンと会った事があるの?」
そう聞かれてハボックとロイは顔を見合わせて笑った。
「ジャンにもマスタング大佐にも会ったスよ」
「不思議な経験だったな」
二人はそう言うと懐かしそうに目を細める。
「ジャンは癒し系だな。私が言うのも変だが思わず抱き締めたくなるくらい可愛い」
「でしょうっ?あの子は小さい時から素直で可愛くてそれがどうしてよりによってあのマスタングなんかとっ」
拳を握り締めてギリと歯を食いしばるクリスにロイが困ったように笑った。そうすればクリスが「あら」と言う顔をして言う。
「同じマスタングでも貴方はあの子憎たらしいエロオヤジとは大分違うわね。あのマスタングが性質の悪い黒豹なら貴方は品のいい仔猫みたい」
クリスはそう言うとにっこりと笑った。その瞳がもう一人の自分と同じだと思いながらハボックは頷く。
「そうっスよねぇ。あっちの大佐はホント性質が悪いっつうか性格が凶暴っつうか、オレだって危うくアイツに――
そう言いかけてハボックは慌てて口を噤んだ。だが、耳ざとい二人はその言葉をしっかりと聞きとめてハボックを見る。
「オレだって危うく、なんだ?」
「どういうこと?はっきり言いなさい」
強い光を湛える2対の瞳にハボックは慌てて手を振った。
「いや、別にたいしたことじゃ
「言いなさい、ジャンっ」
「私に隠し事をする気か、ハボック」
ズイと二人に詰め寄られてハボックは「うう」と低く唸ったがガクリと肩を落とす。以前、向こうの世界に飛ばされた時、怒りに駆られたマスタングにヤられかけたことを話せばロイが目を吊り上げて睨んだ。
「お前、私というものがありながらっ」
「オレは被害者っスよ、大佐っ!それに何にもなかったんスからっ!」
ハボックは必死にそう言いながらロイを宥めていたが、ふと傍らのクリスに目をやるとギクリと体を震わせる。怒るロイに目配せすればクリスに目を向けたロイも身を強張らせた。
「誰よりもジャンのことを愛してるとか言ったくせに、他の男に手を出すなんて、あの、エロオヤジ〜〜〜ッッ!!」
ブルブルと怒りに握り締めた拳を震わせて言うクリスにハボックとロイは言い争っていたことも忘れて思わず手を取り合ってしまう。
「あの、クリス?」
そう呼べば怒りに目を吊り上げたクリスが言った。
「絶対赦さないんだから!何がなんでもあっちに帰って一発殴らなきゃ気がすまないわっ!!」
クリスはそう怒鳴ると手を伸ばしてハボックの襟首を掴む。
「どうやったら元の世界に帰れるのっ?教えなさいっ!」
「い、や、そのっオレにもわからなぐぇっ、く、苦しいッ!!」
グイグイとハボックを締め上げるクリスをロイは思わず壁に背中を貼り付けて呆然と見つめていたのだった。


2008/05/18


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