平行世界32
 
 
マスタングの言うことを黙って聞いていたジャンだったが「どうする?」とヒューズに尋ねられた瞬間拳を握り締めていた。ヒュッと風を切って繰り出した拳を、だがマスタングは紙一重でよける。
「ハボッ!」
「おうっ!」
ジャンの声にあうんの呼吸で答えたハボックがマスタングを背後から羽交い締めに押さえ込んだ。
「なっはなっグウッ!」
ドスッと怒りを込めた重たい拳がマスタングの腹にめり込む。目を剥いて腹を押さえるマスタングの肩をグイと掴んだハボックが今度は思い切り頬を殴った。
「ガハッ!」
殴られた勢いのまま後ろに倒れ込んだマスタングが頬と腹を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
「お前ら何す
「うるせぇっ!!」
マスタングが言いかけるのを遮るようにジャンが怒鳴った。
「なんでアンタってそう自分勝手で独りよがりなんスかっ!オレの気持ちなんていつだって置き去りでっ!アンタがオレを好きなように、オレだってアンタを好きなんだってなんでわかんないんだよっ!!」
ジャンはそう言うとボロボロと涙を零す。
「何でもかんでも勝手に決めんなっ!!」
頬を押さえて呆然と見上げてくるマスタングの襟首をハボックが掴んだ。
「オレの幸せはオレが決めんだよっ!!」
「ジャン
そう怒鳴るとマスタングの襟元に顔を埋めるジャンをマスタングは目を見開いて見下ろす。頬を押さえたきり何もしないマスタングの頭をハボックがどついた。
「てっ!」
痛みに今度は後頭部を押さえて見上げればハボックが目を吊り上げて顎で指し示す。マスタングは少し迷った末、やっとジャンの体を抱き締めた。
「悪かった私が悪かった、ジャン」
「ホントに悪いと思ってるんスかっ」
謝ればジャンが涙に濡れた瞳で睨んでくる。苦笑するマスタングにジャンが続けた。
「悪いと思ってんならちゃんとそれ、証明して下さいよ」
挑むように言うジャンにマスタングは笑って言う。
「思ってるとも。愛してるよ、ジャン」
そう言って口付ければジャンもマスタングの背に手を回して積極的に答えてくる。そうして暫くの間口付けを交わしていた二人だったが、ハボックの呆れたようなウンザリしたような声が聞こえて唇を離した。
「続きは帰ってからにしてくれませんかね」
「ハボ」
「ジャン、早く帰って大佐とあと仕方ねぇからビリーもついでにこっちに帰してくれよ、な?」
笑ってそう言うハボックにジャンは腕を伸ばすとギュッとその体を抱き締める。
「ゴメン、それからありがとう。ホントに感謝してる」
「うん」
「ロイにもそう伝えて」
「ああ、判ってるって」
ハボックはそう言うとジャンの背中をポンポンと叩いて、それからマスタングの方へと押しやった。
「じゃあな、ジャン。大佐も。また何かあったらいつでも来ていいからな」
「うん、ハボ、ありがとう」
「もう二度とこっちには来させないから」
マスタングがハボックをギュッと抱きしめて言えば、あたりを眩い光が包む。眩しさに目を閉じたハボックの耳にジャンの優しい声が聞こえて。
「ありがとう、ハボ。大好きだよ」
ハボックは瞳を閉じたままにっこりと微笑んだのだった。


2008/06/14


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