平行世界31
 
 
一度は殴ってやらなければ気が済まないと思い続けていたにっくきマスタングの顔目がけて、ロイは体重を乗せたパンチを繰り出す。ぐらりと床が揺れたが、ロイのパンチは狙いを違わず目の前の頬に突き刺さった。
「グハッ!」
パンチを食らった相手がもんどり打って転がるのを小気味よい思いで見下ろしたロイだったが。
「え?」
「ひどいですよ、大佐っ、いきなり殴るなんてっ!」
「ブレダ少尉?なんでっ?」
殴ったのは確かにマスタングだった筈だ。それなのに。
「せっかくハボのスコーン食おうとしてたのにっ」
食い損ねたっ、と騒ぐブレダを見ていたロイはハッとして辺りを見回した。
いないっ」
さっきまではいたマスタングの姿が見えないことにロイは歯ぎしりする。
「ハイマンスと入れ代わりに向こうに行ったみたいね」
クリスが眉をひそめてそう言うのを聞いてロイが吠えた。
「また殴れなかったっ!!」
ロイはそう叫ぶとまだしりもちをついたままのブレダの襟首をガシッと掴む。
「今すぐ向こうに戻ってマスタングをこっちに寄越せっ」
「んなムチャなっ!」
目を白黒させるブレダをブンブンと容赦なく揺さぶって喚くロイをビリーがうっとりと見つめた。
「ロイさんってやっぱすげぇ。あのブレダを一撃でのすなんて」
尊敬と憧れの眼差しでロイを見つめるビリーをクリスは哀れな者を見る目つきで見ていたのだった。


2008/06/13


→ 32
30 ←