平行世界30
 
 
「お、旨いなぁ、このスコーン。どっちが作ったんだ?」
「オレっスけど」
たっぷりとジャムをつけたスコーンを頬張りながら聞くヒューズにジャンが答える。今、ヒューズとブレダ、ハボックとジャンの4人はハボックとジャンが焼いたスコーンとクッキーを食べながらまったりお茶の真っ最中だった。
「晩飯、何がいいっスか?どうせ食ってくんでしょ?」
ハボックが紅茶のお代わりを淹れながら聞けばヒューズがにやりと笑う。
「たまには気が利くな、少尉」
「たまにはは余計っス」
ムッと顔を顰めたハボックにヒューズが笑ってリクエストしようとした時。お馴染みの揺れと光が彼らを襲い、皆、目を守る為に腕で顔を覆った。光が収まって今度は一体どうなったのだろうと確かめようとしたジャンは、さっきまでブレダが座っていた席に座っている男の姿に目を瞠る。
「たい
ガタンと音を立てて立ち上がろうとしたジャンの腕を伸びてきたマスタングの手がガッシリと掴んだ。
っっ」
そのまま息を飲んで見つめ合う二人を交互に見ていたヒューズが素っ頓狂な声を上げる。
「お前、あっちの世界のロイか!」
声のした方に視線をやったマスタングはヒューズの顔をじっと見ていたがやがて口を開いた。
「お前はどこにいても変わらんな、ヒューズ」
「お前はちょっとオヤジっぽいか、ロイ」
その言葉にマスタングがムッとして眉を顰めればヒューズが笑う。
「ロイはお前さんのこと殴ったのか?」
「いや、間一髪よけたよ」
「ありゃ、そりゃ残念」
ヒューズに答えていたマスタングはジャンが逃れようともがいている事に気付いて手を離した。意外にも簡単に離された手にジャンは目をいっぱいに開いて唇を震わせる。何か言おうとするより早くマスタングが口を開いた。
「ブレダ少尉は帰ったのか?」
「たぶん、いないみたいっスから」
ハボックが答えてマスタングはそれに頷くとジャンをじっと見つめる。その瞳の強さに言おうとしていた言葉を失くしてしまったジャンにマスタングが言った。
「ハボック、お前、向こうに帰れ」
「え?」
「帰ってロイをこっちに戻せ」
大佐は?」
「私はここに残る」
マスタングの言葉に誰もがみな息を飲む。マスタングは苦笑すると言った。
「私がいなければハボックは幸せになれるそうだ。だから私はこちらに残る。そうだ、ハボック、ビリーのことはと、ややこしいな。ジャンとハボックと呼び分けるんだったか」
同じ顔をした二人にそれぞれ話しかけようとしたマスタングは苦笑いすると改めて言う。
「向こうに帰れ、ジャン。それとハボック。ビリーのことは帰してやれなくてすまないがクリスがちゃんと面倒を見てくれるそうだから、それで赦してくれ」
そう言うマスタングにヒューズが尋ねた。
「それが答えか?ロイ。この一連の騒動の結末がそれでいいのか?」
「そうだ。これがジャンにとって一番いい方法なんだそうだよ。まあ、この世界に二人のマスタングはいらんだろうが、それはゆっくり考えるさ」
「だとよ、ジャン。どうする?」
呆然とマスタングの言葉を聞いていたジャンだったが、ヒューズの声にハッとすると顔を歪める。唇を噛み締めたジャンの拳がヒュッと音を立ててマスタング目がけて繰り出された。


2008/06/12


→ 31
29 ←