平行世界29
 
 
「とにかくっ、向こうに行ったハボックとブレダ少尉を帰せ。でもってとっととこの可愛げのないガキを連れて向こうに帰れっ」
「ブレダ少尉を帰すのも私が帰るのも構わない。だがジャンを帰すのはお断りだ」
そう言って譲らないロイをマスタングは思い切り睨みつける。言い合う二人をオロオロと見ていたビリーが言った。
「ジャンを帰さないって、それじゃ俺はどうなるんですかっ、ロイさんっ」
既にビリーがそこにいることをすっかり忘れ去っていたロイは驚いたように振り向くとビリーの顔を見つめる。黒い瞳にじっと見つめられて頬を染めるビリーを見ながらロイが言った。
「悪いがビリー、こっちの世界で暮らしてくれ」
「えっ?ええーーーっ!ロイさんっ、そんなぁっ!」
「クリス、ビリーをジャンの代わりに弟に」
平然と言うロイにクリスが顔を顰める。
「この子を躾けなおすのも楽しいかも知れないけど、私の弟はジャン一人よ」
クリスはそう言うと指先を顎に当てて言った。
「こういうのはどう?貴方とマスタング大佐が向こうに行ってジャンとハイマンスが戻ってくる。諸悪の根源がいなくなればジャンだって幸せになれるわ」
「私の世界はゴミ捨て場じゃないぞ」
「ジャンの幸せを考えるならそうしてくれてもいいでしょう」
「ふむ
そう言って真剣に考え出すクリスとロイにマスタングとビリーが慌てて言う。
「待てっ、本気で考えるやつがあるかっ!素直にビリーを連れて帰ればいいだろうっ!」
「俺の幸せは考えてくれないんですかっ、ロイさんっ」
掴みかからんばかりマスタングをロイは睨みつけた。
「お前、ホントにジャンを幸せにする気があるのか?」
「なん
「ジャンが可哀想だ。いつだって必死と言えるくらいお前の事が好きで、でもお前と来たら酷い事ばっかり。どうしてジャンはお前なんかがいいんだっ」
ロイはくしゃりと顔を歪めると続ける。
「私の方がよほどジャンを幸せにしてやれる。ハボックと私と3人で暮らした方がジャンの為だっ」
そう断言するロイをマスタングはじっと見つめていたがやがて口を開いた。
「ハボックは?ハボックがそうしたいと望んでいるのか?」
マスタングは激するわけでなくそう尋ねる。答えないロイに言葉を続けた。
「もし、本気でハボックがそうしたいと望んでいるなら、私が反対する理由はないな」
「何言ってんだよっ、アンタっ!ジャンを愛してんだろっ?!だったら――
「愛してるさ。だからこそアイツの望みを叶えてやりたい。私といるよりそっちにいることを選ぶというならその方がいいんだろう」
マスタングの言葉にビリーもクリスも息を飲む。目を丸くするロイにマスタングは笑った。
「ハボックに会ったら伝えてくれ。誰よりも愛してる。たとえもう二度と会うことが出来なくても死ぬまで私の全てはお目のものだと」
そう言って不敵に笑うマスタングにロイは唇を噛み締める。グッと拳を握り締めると腕を引きつけマスタングに殴りつけた、その時。またもや床が揺れるのと同時に光が世界を覆う。殴りつけてくるロイの姿が奇妙に歪むのを見ながらロイは苦く笑った。
(それもこれも全部今までのツケってことか)
もう、ロイに会うことはないのだろう。そして、誰よりも愛しい存在にも、二度と。
マスタングはそう考えながらそっと目を閉じたのだった。


2008/06/11


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