平行世界28
 
 
マスタングは黙ったままクリスの横顔を睨み付けた。言いたいことは山ほどあったが、普段どんな相手でも上手に言い包める事には絶大なる自身がある自分ですら、今クリスと言い合いをして勝てる自信がなかった。
『本当に愛してるならそんな真似はできない筈よ』
そう言い切ったクリスにそんなことはないと言えないことはない。実際自分は誰よりもハボックを愛しているという自信があるからだ。だがその気持ちが高じて行き過ぎては泣かせてしまうのも事実で。
(
アイツが可愛すぎるからいけないんだ)
身勝手な男が自分勝手な理由を思い浮かべた時。
一人を除けばそこにいる誰もが経験した揺れが辺りを襲い、まばゆい光が周囲を覆う。光から目を守ろうと腕で顔を庇っていたマスタングの耳にシュッと風を切る音が聞こえて。
「マスターングっっ!!」
「うわっ?!」
声と共に殴りかかってきた拳をマスタングは咄嗟によけた。
「なっ?!ロイっ?!」
「よけるなっ!殴らせろっ!」
「バカ言えっ!殴られたら痛いじゃないかっ」
続け様に殴りかかってくるロイをマスタングは紙一重でかわしていく。可愛い顔して容赦ないパンチを繰り出してくるロイの拳をよけていたマスタングは、正面からガッチリとその拳を受け止めるとグググと力を込めた。
「貴様っ、いい加減にしろっ」
「うるさいっ!いつもいつもジャンを泣かせやがって!絶対に赦さんっ!」
ぎゃあぎゃあと互いの手を掴んで押し合うロイとマスタングに呆気にとられていたクリスはハッとすると怒鳴る。
「いい加減にしなさいっ!ひっぱたかれたいのっ!」
クリスの声にロイとマスタングは渋々と手を離した。険しい表情を浮かべるロイにクリスが尋ねる。
「なんで貴方が来てるの?ジャンはっ?」
ジャンを帰す気はない」
「何言って――
「コイツがいる限りジャンは帰さないっ!」
クリスの言葉を遮ってロイはマスタングを指差すとキッパリと言った。呆然と目を見開いたマスタングは次の瞬間我に返ると怒鳴る。
「ふざけるなっ!さっさとハボックを帰せ!今すぐあっちの世界に帰ってハボックを戻せっ!」
「帰るとも、お前を殴ったらな。でもこっちに帰ってくるのはブレダ少尉だ」
「ハボックだっ、ハボックを戻せっ」
「断わるっ!」
「ジャンを戻してっ、!」
「嫌だっ!」
その時、怒鳴りあう3人の合間を縫って、遠慮がちな声がかかった。
「あのう
ジャマをするのは誰だとばかりに声のした方をギッと睨んだロイは、困ったような笑みを浮かべてひらひらと手を振るビリーの姿に目を丸くする。
「ビリー。どうしてここにいるんだ?」
きょとんとしてそう言うロイに。
「ロイさん、そりゃないっス
情けない声を上げるビリーだった。


2008/06/10


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