平行世界26
 
 
「ジャン」
コンコン、と軽いノックの音と共に扉を開けたヒューズはサアッと吹き抜けた風に目を瞠る。正面の窓枠にはジャンが腰をかけて外を見ていた。
「ジャン」
もう一度呼べば金色の頭が振り向いてヒューズを見る。にっこりと笑うと答えた。
「中佐」
ヒューズはジャンに近づくと窓枠に両手をついて身を乗り出す。柔らかい風に目を細めると言った。
「もう落ち着いたか?」
「ええ、まあ」
答えるジャンを見やるとヒューズは言う。
「俺にゃよく判んねぇけど、お前ロイに遠慮しすぎだ」
「ははでも、心配かけたくないし」
ジャンはそう言って視線を落としたがヒューズを見つめると言う。
「ねぇ、中佐。オレ、帰ってもいいんスかね」
「お前が帰りたいならな」
「でもロイが帰るなって」
「ありゃロイのワガママだ。気にすることねぇ」
そう言い切るヒューズにハボックはくすくすと笑った。
「中佐はやっぱ中佐っスね」
「そうか?そっちでも俺ってこんな感じ?」
「そっスね。賑やかで、マイペースで、でもすげぇよく人のこと見てる」
「へぇ」
ヒューズは面白そうに片眉を跳ね上げる。
「不思議だな、俺と同じ人間がもう1人いるなんて。いや、1人じゃなくて5人、10人いるかもしれない」
ヒューズがそう言えばジャンが声を上げて笑った。
「やだなー。中佐が10人」
「おい、どういう意味だよ、そりゃ」
クックッと笑うジャンにヒューズは眉を顰める。それでもジャンの様子に手を伸ばすとその金色の髪をワシワシとかき混ぜて言った。
「帰んな、お前の世界に。大丈夫、ロイも判ってくれるさ」
「中佐
そう言って笑うヒューズにジャンも笑い返す。何か言おうとする前にバタバタと足音がしたと思うと荒々しく扉が開いた。
「中佐ッ」
「ハボっ」
「あれブレダ?うそ」
顔色を変えて飛び込んできたハボックとブレダにジャンが目を丸くする。
「どうした、少尉」
ブレダが突然いる事に嫌な予感を覚えながらヒューズがそう尋ねれば。
「今度はロイがあっちに行っちゃったっス!」
そう答えるハボックに。
ヒューズとジャンは顔を見合わせたのだった。


2008/06/08


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