平行世界25
 
 
「はああ、パラレルワールドの少尉ねぇ
マスタング邸のソファーに座ったヒューズは正面に並んで座ったハボックとジャンを見る。髭を手で弄りながらジロジロと見ると言った。
「パラレルワールドなんて空想の世界だと思ってたけど、いや、実際こうして二人並んでなきゃいくらお前さん達の言ってることでも信じらんないよなぁ
「へええ」だの「ほおお」だの言いながら上から下まで舐めるように見るヒューズの視線からハボックがジャンを庇いながら言う。
「いやらしい目でジャンを見るのやめてくれないっスか、中佐」
「あ、失礼なヤツ。俺のこの目のどこがいやらしいって言うんだよ」
「どこまでも全部いやらしい」
そうキッパリ言い切るロイにヒューズは眉を垂れた。
「ロイ。そりゃないだろう」
親友に対してそれはヒドイだのひとしきりごねた後、ヒューズは真面目な顔をすると言った。
「で、ジャンがパラレルワールドから来たのは判ったけど、これからどうすんの?そもそもジャンがここに来た理由とかあるわけ?」
3人の顔を順繰りに見回しながらヒューズが言う。どうしてこう、とぼけた顔をしていながら人が一番聞いて欲しくない核心部分に触れてくるのだろうと、ロイが腹ただしげに思っているとジャンが口を開いた。
「どうするも何も帰る方法判んないし、とりあえずここに置いて貰うつもりっスよ。家政婦代わりにくらいなるでしょ」
ジャンはそう言うと立ち上がる。
「すんません、ちょっと
「ジャン」
言って部屋を出て行こうとするジャンをハボックが呼び止めた。ジャンは肩越しに振り返ると答える。
「心配しないで。もう外へは行かないから」
そう言って部屋をでるとパタンと扉を閉めた。少しして2階に上がる足音と扉の閉まる音がする。黙ってそれを聞いていたヒューズはロイの顔を見ると眉を寄せた。
「ちゃんと判るように説明しろよ、ロイ」
だが眉を顰めたまま答えないロイに、見かねたハボックがこれまでのことをかいつまんで話す。ハボックはロイの顔を見ると言った。
「ロイ、ジャンが可哀想っスよ。アイツ、帰りたいんだ、元の世界に。マスタング大佐のいる世界に帰りたいんスよ。だから――
「絶対にダメだっ!」
「ロイっ」
「マスタングのところへ帰したらジャンは絶対不幸になる。向こうに帰ったら私達は何もしてやれないんだぞ。不幸になるとわかっているのにみすみす帰すなんて、そんな事が出来るもんかっ!」
「でも、だからって帰っちゃダメだなんて、そっちの方が可哀想っスよっ!」
ハボックとロイが言い争うのをヒューズは暫く黙って聞いていたが、やがて手を上げると口を挟む。
「あー、大体事情はわかったけどさ。俺から言わせりゃ、ロイ。お前のはそりゃ単なるワガママだろ」
「なんだとっ」
「お前はジャンのことが心配で帰さないんじゃない。向こうの世界でジャンがどうしてるか心配するのが嫌で帰さないんだろ。こっちにいればジャンが泣いてりゃ抱きしめてやれる。でも向こうじゃ何があっても判らない。自分の力の及ばない所でジャンが泣くのが嫌だって、そんなのワガママ以外の何だってんだ?」
目を見開いて見つめてくるロイを見返してヒューズは続けた。
「泣いたって不幸になったってジャンの人生だろ。それでも向こうに帰りたいって言うなら帰してやるのが親心ってもんだよ、ロイ」
ヒューズはそう言うと立ち上がる。
「俺はジャンと話して来るからその間にお前さん達の意見、纏めといてな」
そう言って部屋を出て行くヒューズの背中を睨んでいたロイは、ゆっくりと両手に顔を埋めた。
「チキショウ、勝手なこと言いやがって、あの髭オヤジ」
「ロイ
低く呻くロイの肩に手を回してハボックが言う。
「帰してやりましょうよ。ロイだってホントは判ってたんでしょ?」
中佐に言われなくても、と言うハボックの言葉にロイはまた呻いたが。
「チキショウっ、あのエロオヤジ、一度殴ってやらないと、このまんまでジャンを帰せるかっ!!」
突然顔を上げたロイがそう叫んだその瞬間。
床がグラリと揺れてあたりを眩い光が覆い。
「えロイ?」
ギュッと目を閉じていたハボックはゆっくりと目を開けて隣に座っていた筈のロイを見る。なんだか妙にソファーを占拠する体を辿ってその先にある顔を見れば。
「ブ、ブレダ?」
「え?ハボ?」
さっきまでロイがいた場所に座っていたのはハボックの幼馴染、ハイマンス・ブレダ少尉だった。


2008/06/07


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