平行世界21
 
 
「ジャン、今日のメシだけど」
ハボックは寝室としてジャンに提供している2階の客間の扉をノックと共に開けながら言う。窓枠に腰を乗せてぼんやりと外を見ているジャンの様子に眉を寄せるともう一度名を呼んだ。
「ジャン」
「えっあ、ああ、ハボ。なに?」
ビクッと肩を揺らして振り向いたジャンが無理矢理笑顔を作る。こちらの世界に来てから5日ほど。日を追うにつれジャンの顔からは笑みが消え、ぼんやりとしていることが多くなっていた。ハボックはゆっくりとジャンに近づくとその顔を覗き込む。小首をかしげるジャンにハボックは言った。
「帰りたいんじゃないのか?向こうに」
言われてジャンは目を大きく見開いたが、すぐに笑うと言い返す。
「オレは別に。こっちにいれば大佐に振り回されることもないし、ハボの料理は旨いし、ロイは優しいし、このままこっちにいてもいいなぁって」
「ジャン」
ジャンの言い様を聞いていたハボックはジャンの肩をグッと掴むと言った。
「無理すんなよ、ホントは会いたくて仕方ないくせに。オレもロイと喧嘩した時、二度と会いたくねぇって思ってもそんなのほんの一瞬だもん。すぐに顔見たくて仕方なくって。ジャンだって同じだろ?ホントは帰りたくて仕方ないんだ。そうじゃないか?」
自分と同じ顔をしたその唇からロイに会いたいのだと言う言葉が零れるのを聞いて、ジャンは唇を噛み締める。それでも緩く首を振ると言った。
「でも、大嫌いって言っちゃったし、きっと大佐、怒ってる。それにどうやって帰ったらいいかなんて判んないし」
泣きそうな顔でそう囁くジャンにハボックは言う。
「帰りたいって強く思ったら帰れるかもしれない。いやきっと帰れるよ、だから――
「ダメだ」
その時、扉のところからロイの声が聞こえてハボックとジャンは振り向いた。険しい顔をしたロイが部屋に入ってくると言う。
「ジャンは絶対に返さない」
「ロイっ、何言ってるんスか、アンタ」
ロイは見開く空色の瞳を見つめると言った。
「あっちに帰ったってジャンは幸せになれない。ここにいた方がよっぽどいいに決まってる」
「ロイ
キッパリと言いきるロイにジャンが呆然と呟く。ハボックはジャンを抱き締めるように引き寄せると言った。
「そんなこと、ロイに判るわけないでしょうっ」
「判るさ。一目瞭然だろう?これまでアイツがジャンに何をした?傷つけて泣かせてばっかりで、私は絶対に赦さないからな!」
「ロイっ、アンタ、いい加減に――
「ハボ、もういいから」
「ジャンっ?!」
ジャンはハボックの腕から抜け出すと笑みを浮かべる。
「心配してくれてありがとう。迷惑かけてゴメン。オレなら大丈夫だから」
ジャンはそれだけ言うと逃げるように部屋を出て行った。ハボックはキッとロイを睨みつけると言う。
「アンタねぇっ、言っていいことと悪いことってもんが――
「嫌なんだっ!」
ハボックの言葉を遮ってロイが叫んだ。
「嫌なんだ、ジャンが私がどうしてやることも出来ないところで辛い思いをしてるかと思うと堪らない。私はジャンに幸せになって欲しいんだっ」
「ロイ
そう言って顔を歪めるロイにハボックは返す言葉もなく、その細い体を引き寄せるとそっと抱き締めたのだった。


2008/06/02


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