平行世界19
 
 
「さ、今日はジャンの為に腕振るうからなっ」
ハボックはそう言うとニカッと笑う。
「オレも手伝うよ」
とジャンが申し出れば
「いいから。今日は座ってて。つか、大佐の相手してて。こっちに二人で篭っちゃうと拗ねるから」
そう言うハボックにジャンも素直に頷くとリビングへと歩いていった。
「ジャン」
本を読んでいたロイはジャンが入ってきたのに気付くと視線を上げる。本を閉じて横に置くと手招いた。
「少し痩せたんじゃないのか?」
そう言って隣に座ったジャンの頬を撫でるロイにジャンが笑う。
「そんなことないっスよ。ロイ、心配性なんだから」
と、そう言ってから目を伏せた。
「こんな風にこっち来たら心配もするっスよね」
ごめんなさい、と俯くジャンをロイは優しく抱き締める。そっと背を撫でていたが口を開くと言った。
「クリスはなかなか魅力的な女性だな。パワフルで芯が通ってて」
そう言われてジャンは顔を紅くする。
「もう、クリスのことだから勝手なことばっかり言ってたんでしょ?ホントごめんなさい」
「でも、とても楽しかったよ。それに彼女は正直で間違ったことは言わない。ただ直線的過ぎる気はするけどね」
姉のことをそう評価されてジャンは小さく笑った。
「悪気はないんスよね。オレ、実は姉貴の中じゃクリスに一番懐いてたんスよ」
ジャンはそう言うと何かを思い浮かべるように宙を見つめる。暫くするとポツリと言った。
「最初に大佐見たとき、クリスと似てるなぁって思ったんスよね」
そう言ってから慌ててロイを見る。
「あっ、大佐ってのは向こうの大佐で、それで、あのっ」
「ジャン」
呼んでまっすぐに見つめればジャンが口を噤む。何か言いたげに空色の瞳が揺れたが、結局何も言わずに視線を逸らした。
「まだ大分かかるのかな。オレ、ちょっとハボのとこ見に行ってきますね」
そう言ってジャンは勢いよく立ち上がるとリビングを出て行く。その背が扉の向こうに消えるとロイは思い切り眉を顰めた。
「あのクソオヤジっ、絶対燃やしてやるっ」
ロイはそう呟くと自分と同じ姿を持つ男のことを思い浮かべて拳を握り締めたのだった。


2008/05/31


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