平行世界18
 
 
キッチンで痴話喧嘩をしていたハボックとロイは突然グラリと揺れた床に驚いて支えあう。次の瞬間隣の部屋から眩いほどの光が差し込んで、二人は顔を見合わせると部屋へと飛び込んだ。
「クリスっ?!」
「どうした?大丈夫かっ?」
口々に叫びながらさっきまでクリスがいたはずのリビングに入る。ゆっくりと光が収縮してその中心にいた人物が蹲ったまま頭を振った。
「クリス?じゃない」
「えっ?ジャンっ?!」
蹲っていた人物が二人の声に反応してゆっくりと顔を上げる。振り向いた空色の瞳が驚きに見開かれたと思うとその唇から言葉が零れた。
「ハボ?ロイ?え、なんで?」
きょろきょろとあたりを見回すジャンの傍へ二人は駆け寄ると争うようにしてジャンの顔を覗き込む。ハボックはジャンの顔を両手で包むと言った。
「ジャン本当にジャンだっ、すげぇ、嘘みたいだ。また会えるなんてっ」
ハボックはそう言うとジャンをギュッと抱き締める。戸惑いながらもジャンもハボックを抱き返すと言った。
「オレもまたハボに会えるなんて思ってもみなかった」
「元気だったか、ジャン?」
そう尋ねればジャンが微笑んで頷く。嬉しそうに更に何か言おうとしたハボックを押しのけてロイが言った。
「久しぶりだな、ジャン」
「ロイ」
ロイは手を伸ばしてジャンの頬を撫でたが、その瞳を覗き込むと心配そうに言う。
「どうした?何があった、ジャン」
ロイの言葉にジャンは目を見開き、ハボックは慌ててジャンの肩を掴んだ。
「何かあったのか?どうしたんだ?」
心配そうに見つめてくる2対の瞳に。
「えあのオレ」
驚きに見開いた空色の瞳からポロリと涙が零れ落ちる。
「ジャンっ」
ポロポロと涙を零すジャンをハボックが優しく抱き締めた。
「大丈夫だから、泣かないで、ジャン」
そう言って優しくジャンの背を撫でるハボックを見ながらロイが眉を顰める。
「またアイツだなっ!マスタングのヤツっ!」
憎々しげにそう呟いたロイはハボックの背を押して二人をソファーへと導いた。腰を下ろしたジャンを間に挟むようにしてソファーに座るとロイはジャンの髪を撫でる。
「ここにくればもう安心だからな。ハボック、飲み物を入れて来い」
「あっ、はいっ」
ロイの言葉に慌てて立ち上がるとハボックはキッチンへと入っていく。ロイはジャンの肩を優しく引き寄せると言った。
「よく来たね。会いたかったよ、ジャン」
「ロイオレ」
「ん?」
ロイは答えて指先で金色の睫についた涙の滴を拭ってやる。その頬に口付ければココアの入ったマグカップを手に戻ってきたハボックが唇を尖らせた。
「あっ、大佐、ズルイっすよ!自分だけっ」
ハボックはそう言うとソファーに座りカップをジャンに差し出す。
「はい。落ち着くから」
「ありがとう
ジャンはハボックの手からカップを受け取ると小さく微笑んだ。その笑みに庇護欲をかき立てられてハボックが聞く。
「何があったんだ?ジャン。又あのクソオヤジがろくでもないことしやがったのか?」
「おい、ハボック。もう少しジャンが落ち着いてからにしないか。しかもそんな聞き方で」
ロイがジャンの髪を撫でながら責めるように言えばハボックがムゥと唇を尖らせた。二人のやり取りを見ていたジャンがクスリと笑ってハボックとロイも思わず安心して頷きあう。ジャンはココアをひと口飲むと言った。
「ビリーってハボの弟だろ?」
「あっ、そっちに行ってたのはビリーか!」
「こっちにはクリスって言う女性が来てたぞ」
「えっ、やっぱりクリス?」
ジャンは目を丸くするとハボックとロイの顔を見る。小さく身を縮めると言った。
「ごめん迷惑かけただろ?」
「迷惑って言うか
「まあ、なんだな」
ジャンの言葉にハボックとロイは顔を見合わせる。クスリと笑いあうとロイが言った。
「まあ、概ね楽しかったよ」
「そうそう。ジャンの姉さんに会えて嬉しかった」
そう言う二人にジャンは恐縮したような笑みを浮かべる。ロイはジャンの顔を見つめて言った。
「それよりジャンの方だ。一体なにがあった?」
聞かれて困ったように俯くジャンをハボックが促す。ジャンは躊躇いながらもビリーが現れたところからかい摘んで話した。
「ごめん、こんなことで。でもオレ、死にそうなほど恥ずかしくてっ、それに凄くショックだったし」
そう言って俯くジャンをロイがそっと引き寄せる。金色の髪に優しく口付けると言った。
「いいんだよ、ジャン。来てくれて嬉しい」
「くっそマスタングどころかビリーまでっ。帰ってきたらぶん殴ってやるっ!」
ハボックはそう呟くと拳を握り締める。それからジャンの手を取ると言った。
「ここにいれば安心だから。オレと大佐で守るから。ね、大佐」
「ああ、勿論」
そう言う二人に両側から抱き締められて、ジャンはくすぐったそうに笑ったのだった。


2008/05/30


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