| 平行世界17 |
| 「クリスっ?」 「誰っ?このオバサンっ!」 「オバ…っ?!」 さっきまでハボックがいた場所に突然現れたクリスに誰もが目を丸くする。 「ジャンをどこにやったんだよっ」 「ハボックっ、どこだっ?!」 そう叫んでビリーとロイはベッドに座り込んだクリスを突き飛ばすようにしてハボックの姿を探す。 「きゃっ!」 「ジャンっ、どこっ!?」 「ハボックっ、私だっ!」 ひとしきり探したものの狭いベッドの上、そうそう隠れるところなどあるはずもない。二人はベッドに座り込んだままのクリスを睨むと怒鳴った。 「ジャンをどこにやった!出せっ!」 「どういうことだ、クリスっ!ハボックを出し給えっ!」 ぎゃあぎゃあと大声で喚いている二人をクリスは呆然と見つめる。 「なんとか言えよっ、オバサンっ!」 が、ビリーの一言に我に返るとふるふると拳を握り締め。 「おだまりっ!!」 きれいに口紅を塗った唇からほとばしった怒鳴り声に二人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で黙り込む。クリスはロイとビリーをぎろりと睨み付けるとこの部屋にいたもう一人の人物の名を呼んだ。 「ハイマンス!」 「はっ、ハイっ!」 裏返った声で返事をして直立不動の態勢を取るブレダにクリスは言う。 「説明しなさい!」 そう言われてブレダはビリーが現れたところから、エッチを見られてショックを受けたハボックがここに泣き付いてきたところまでをかい摘んで話した。黙ってブレダの話を聞いていたクリスは髪をかき上げるとベッドから足を下ろす。スッと立ち上がるとロイとビリーの前に立ち、パンッ!パァンッ!と二人の頬を張った。叩かれた頬を押さえて呆然とクリスを見やる二人を睨み付けてクリスが言う。 「マスタング大佐、ジャンがこっちに帰ってきたらあの子が何て言っても連れて帰るわ、貴方にジャンは任せておけない」 「なっ…冗談じゃない!いくら君がハボックの姉だとしてもそんな勝手な事は――」 「勝手な事?勝手なのは貴方のでしょう?子供相手にくだらないヤキモチ妬いた挙句セックスしてるところを見せるなんて」 「くだらないとは何だ。私は本当にハボックを愛しているからこそ――」 「本当に愛してるならそんなジャンを見世物にするような真似はできない筈よ」 ビシリとそう言われてロイは言葉に詰まる。クリスはビリーの顔を見ると言った。 「アンタね、向こうのジャンの弟のくせにジャンに惚れてんじゃないわよっ!100歩譲って惚れたのは仕方ないとしても好きな相手に“エッチしてるとこ見て興奮したから俺にもヤらせろ”だなんて、男として最低よっ!」 「なん…っ」 クリスのセリフにカッとして言い返そうとしたものの反論する要素などなくてビリーは唇を噛み締めて俯く。クリスはひとつため息をつくと言った。 「それにしてもどういうことかしらね。本当なら私がこちらに帰ってきたならこのビリーが向こうに戻る筈でしょう?どうしてジャンが…」 腕を組んだクリスが小首を傾げて言ったとき、ブレダが遠慮がちに手を上げる。 「なに?ハイマンス。言いたいことがあるなら言いなさい」 「いや、はっきりとは判らないから想像でしかないんだけど」 「余計な前置きはいいから」 間違ったことを言ったらヤバイととりあえずの言い訳を言えば、クリスにそう口を挟まれてブレダはうへぇと首を竦めた。それでもめげずにクリスを見ると言う。 「ハボのヤツ、消える直前に言ったんですよ。“恥ずかしくて消えちまいたい”って」 「つまりジャンが“消えたい”って言った事に世界が反応したってこと?」 「ええっ? そんなこと、あんのっ?」 ブレダに答えてクリスが言えばビリーが素っ頓狂な声を上げた。クリスはロイの顔を見ると尋ねる。 「マスタング大佐。貴方、そう言う事聞いた事は?」 「残念だがないな。だが、もしその仮定が本当だとしたら」 ロイはそう言って一度言葉を切ると皆の顔を見回した。 「もしが望んであちらの世界に行ったのだとしたら、ハボックは帰って来るのか?」 そう尋ねたロイの言葉に答えられるものは誰もいなかった。 2008/05/29 → 18 16 ← |