平行世界15
 
 
「おはよう、ビリー」
ソファーにだらしなく腰掛けてぼんやりとしていたビリーは上から降ってきた声に驚いて目を上げる。ニコニコと笑って自分を見下ろす空色の瞳に、ビリーは思わず目を見開いた。
「おっ、おはようっ、ジャンっ」
慌ててそう答えたものの、微笑むハボックの顔に夕べ盗み見た快楽に蕩けた顔が重なる。そうすれば艶っぽい喘ぎ声や熱を帯びて桜色に染まる肌、イく瞬間のハボックの表情などが次々と浮かんで来てビリーは真っ赤になって視線をきょろきょろと彷徨わせた。
「どうかしたの?」
いかにも挙動不審なビリーの態度にハボックが眉を顰める。ビリーは言葉にならない言葉で必死に言い訳していたが、ふともし自分が夕べのロイの様にハボックに触れたならどうなるのだろうと考えた。
「な、なに?」
目をまん丸にするハボックをビリーはじっと見つめる。何となく不穏な空気にハボックが思わず身を引こうとした時、ビリーはいきなり立ち上がるとハボックの肩に両手を置いた。
「ジャン」
「なに?ビリー」
「俺にもヤらせて」
「へ?」
真顔で迫ってくるビリーをハボックはポカンとして見つめる。ビリーは肩に置いた手に力を込めると言った。
「抱きたいって言ったらいいよって言ったよね、この間。だったら今すぐヤらせてっ」
「えっ、ちょっと、待っあれはあの時の雰囲気っつかアッ、うわっ!」
体重をかけてくるビリーを支えきれず、ハボックは諸共にソファーへと倒れ込む。そのハボックの姿にロイに抱かれていたハボックの姿がシンクロして興奮したビリーがハボックのシャツに手をかけた時。
「貴様ァッ、ハボックに何をするっっ!!」
怒鳴り声とともにビリーの前髪にポッと火がついて。
「うわっ!あちちちちっっ!!」
慌ててビリーはハボックから体を離すと火のついた前髪をバシバシと手のひらで叩く。その間にロイはハボックの体を引き寄せるとしっかりと抱き締めた。
「このっ、キスだけでも赦しがたいというのに、よくもハボックにっ!!」
「んなこと言ったって、昨日アンタが散々見せ付けたからだろっ!」
「ハボックが私の物だと言うことを見せてやったんだろうがっ!それなのに手を出そうとは図々しいにもほどが―――
「大佐」
怒りに任せてロイがビリーを怒鳴りつけるその言葉を遮って低い声がする。そのあまりの冷たさにロイとビリーが言い合っていたことも忘れて声の方を見れば、空色の瞳が氷の輝きを秘めて二人を見ていた。
「ちょっと聞きたいんスけど」
「ハ、ハボック?」
「夕べ、もしかしてビリー、ここでオレ達がやってた事、見てたんスか? しかも大佐はそれに気付いてた?」
そう言ってハボックが黙り込む二人の顔を順繰りに見る。次の瞬間ロイとビリーは顎に衝撃を受けて床へと吹っ飛んでいた。
「よっ、よっ、よくもっっ!信じらんねぇっっ!!」
真っ赤な顔でそう怒鳴るとハボックは二人を殴った拳を震わせる。くしゃりと顔を歪ませると大声で怒鳴った。
「大佐もビリーも大ッ嫌いだっ!!!」
ハボックはそう言うとくるりと背中を向けリビングを飛び出していく。
「あっ、待てっ、ハボックっ!」
「待って、ジャンっ!」
慌てて起き上がるとハボックを追おうとした二人は同時に扉を通ろうとしてもつれ合って転んでしまった。その間に玄関がバタンと閉じる音がして二人は顔を見合わせる。
「お前のせいだぞっ!」
「アンタがいけないんだろっ!」
そう怒鳴りあって互いの襟首を掴んだものの、ハタとそんな場合ではないと気付いた。
「こんなことしてる場合じゃっ」
「ジャン、追いかけなきゃっ」
二人は互いを押しのけるようにして立ち上がるとハボックを追って玄関を飛び出したのだった。


2008/05/27


→ 16
14 ←