平行世界13
 
 
「ちょっと、ジャン!このコーヒー薄いわ」
ソファーに座って膝の上に広げた雑誌を読んでいたクリスが、コーヒーを睨み付けながら言う。
「あれ? そっスか? コーヒーの分量間違えたかな」
ハボックはそう言うとクリスの手からカップを受け取った。
「気をつけてよね」
「すんません」
クリスに言われて頭を掻きながら言うハボックの様子を見ていたロイが嫌そうに眉をひそめる。読んでいた本を乱暴に閉じると言った。
「ハボックを顎でこき使うのはやめてくれないか、クリス。」
そう言うと、さも不機嫌だというように続ける。
「ハボック、お前もお前だ。言われたからってホイホイ言うこときいてるんじゃない!」
「えー、でも大したことじゃないし」
「だからって何でもかんでも言うとおりにするなっ」
ロイの剣幕にハボックは困ったように笑うとキッチンへと入っていった。ロイがムスッとしてソファーに体を預けるのに、二人の様子を面白そうに見ていたクリスが言う。
「向こうのマスタング大佐はジャン好き好きオーラ全開で鬱陶しいエロオヤジだけど、貴方はそうでない代わりに素直じゃないのねぇ」
どういう意味だ?」
クリスの言葉にロイが剣呑に瞳を細めて言った。大抵の人間なら竦み上がってしまいそうなその視線に、だがクリスは平然として答える。
「自分以外の人間の言うこと、聞いて欲しくないならそう言わないと。素直にならないとジャンのこと取られちゃうわよ?」
そう言えば僅かに目を見開くロイにクリスが続けた。
「ほらあのベーカリーの可愛い娘()、ジャンに気があるみたいね。この間も随分アプローチしてたわよ。可愛いくせに凄いボインで、もろジャンの好みじゃない?」
クリスははまん丸に見開いて見つめてくる黒い瞳にニッコリと笑うと言う。
「このまま迫られてたらオチちゃうかも」
その言葉にガタンと立ち上がるとロイはキッチンへと飛び込んでいった。ぎゃあぎゃあと言い合う声を聞きながらソファーから立ち上がる。
「あー、スッキリした」
そう言って大きく息を吐き出すとロイが放り出した本を手に取った。
「もう、ジャンってばコーヒーまだかしら」
せっかくスッキリしたのにと、なかなか元の世界に帰れない鬱憤をハボック達で晴らしながら勝手なことを呟くクリスだった。


2008/05/25


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