平行世界12
 
 
「アンタ、ほんっと手際いいわねぇ。フレッドもこれくらいできれば言うことないんだけど」
クリスはキッチンで食事の支度をするハボックの手元を覗き込みながら言う。正直手伝う気がないのなら向こうに行っていて欲しいと思いつつ、ハボックは言った。
「ジャンも結構料理、上手かったっスよね」
「そりゃそうよ。私が教えたんですもの」
その言葉にハボックは思わず手にした塩の瓶を取り落としそうになる。
「えっ、クリス、料理できないって言わなかったっスか?」
「いつ私が出来ないって言ったの。したくないからしないだけよ」
澄ましてそう言うクリスにハボックは手早く味付けしてしまうと火を止めて言った。
「でも、家事全般フレッドの役目って言ったっスよね。二人で手分けしてやった方が早くないっスか?」
「あら、彼がやりたいって言うから私は手出ししないだけよ?」
「だってやらなきゃ結婚しないって脅したんでしょうが」
ハボックが呆れてそう言えばクリスはくすりと笑う。カウンターに寄りかかってハボックを見上げると言った。
「バカねぇ、ジャン。アンタってホント馬鹿」
「はあ?なんスか、それ」
クリスの言っていることが判らなくてハボックは唇を尖らせる。クリスはそんなハボックに薄く笑うとハボックの襟元をグイと掴み引き寄せた。尖らせた唇にチュッと口付けると目を丸くするハボックの鼻先をチョンとつついた。
「年上の相手の心理を研究しないと、フラれるわよ。ねぇ、マスタング大佐」
「えっ?!たっ、たいさっ?!」
クリスの言葉にハボックが慌てて視線を向ければキッチンの入口で目を吊り上げているロイが目に入る。
「い、今の見て
「ハボックっ」
「ちょっ誤解ッスよっ!今のはクリスがっ、って、クリスっ、ちゃんと説明してっ!」
「あはは、まあ、頑張んなさい」
クリスはそう言って笑うとキッチンから出て行ってしまう。ロイの不機嫌な声と必死に言い訳するハボックのそれとを聞きながらうーんと背伸びをした。
「ちょっとスッキリしたかしら
いくら自分の弟ではないとは言えやはり二人が付き合うことが何となく面白くなく、わざと波風立ててクリスはそう呟く。リビングの窓へと近づくと夜の空を見上げた。
「ちょっぴり会いたくなったかしらね」
細い月を見上げて、恋人達の痴話喧嘩を聞きながら、ほんの少し郷愁に駆られたクリスだった。


2008/05/24


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