平行世界11
 
 
「何回も行ってるクセして帰る方法が判らないだなんて、信じられないわ」
クリスはブツブツと言うと手にしたコーヒーのカップに口をつける。ここはマスタング邸のリビング。ハボックが腕を振るった夕食を済ませた後、ハボックとロイ、クリスの3人で食後のデザートを食べているところだった。
昼間、帰る方法を教えろとハボックを散々締め上げたクリスだったが、すぐには帰る方法がないと判るとクリスは当面の宿としてハボックの家に泊めろと言い出したのだった。
「ええと、ホテルをお取りしますから。その方が快適っスよ?」
ハボックが顔を引きつらせてそう言ったが。
「アンタ、か弱い姉を分けのわからない世界で一人ほっぽり出そうって言うのっ?!」
クリスに一蹴されて家に連れてくる事に相成ったのであった。正直、か弱くも実の姉でもないと思いはしたがハボックにそれを言う勇気がある筈もなく、ロイとしても流石に不安がっている女性(例え本人曰くだとしても)をホテルに放り込むわけにはいかず、かくしてクリスは当然と言う顔をしてマスタング邸のソファーに座っているのである。
「あら、このマンゴーのタルト、美味しいわね」
クリスは手にしたケーキを食べながらそう言った。
「お褒めに預かって光栄っス」
向かいに座ったハボックがそう言えばクリスが頷く。
「料理も上手だったけどケーキ作りの腕もなかなかのもんだわ」
そう言って美味しそうにケーキを食べているクリスにロイが言った。
「クリスは結婚してるんだろう?仕事をして食事も作ってじゃ大変だろうな」
「あら。私、食事なんて作らないわよ」
澄ましてそう答えるクリスにハボックが聞く。
「え?それじゃ毎日外食?それはそれで大変っスね」
「何言ってんの。フレッドが作るに決まってるじゃない」
「フレッド?」
目を見張って聞き返すハボックにクリスは一瞬考えて、目の前にいるのが自分の弟でない事を思い出した。
「アルフレッド・マーシャル。私の主人よ。家事全般は彼の役目なの」
「家事全般?じゃあ、家じゃ何もしないの?」
「当たり前でしょう。どうして私がしなくちゃならないの?」
眉間に皺を寄せてさも嫌そうに言うとクリスは続ける。
「食事も掃除も洗濯も、やってくれないなら結婚しないって言ったら花嫁修業の教室に通ってたわ、彼」
にっこり笑ってクリスはハボックを見ると言った。
「アンタも料理の腕はいいし、いつでもお嫁さん貰えそうね」
そう言われてハボックは思わずロイと顔を見合わせる。そんな二人を見てクリスは僅かに眉を寄せた。
「もしかしてこっちの世界でもアンタたちって付き合ってるの?」
「えっ、ええ、まあ
聞かれて引きつった笑みを浮かべる二人をクリスはまじまじと見つめる。身を乗り出すようにして暫くじっと見つめていたが1つ息を吐くとソファーに背を預けた。
「まあ、いいわ。貴方ならあのエロオヤジよりはずっとマシだし、それに何だかんだ言っても実の弟じゃないし」
クリスはそう言うとコーヒーをひと口飲んでにっこりと笑う。
「まあ、頑張んなさいね。あ、そうそう、ジャン。姉さん、明日は魚料理が食べたいわ、いいわね」
そう言うとケーキのお代わりを要求するクリスに。
(実の弟じゃないって言ったじゃんっ)
そう心の中で思ったもののとても口には出せないハボックだった。


2008/05/23


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