| 平行世界10 |
| ロイは司令部の廊下を歩きながら考えていた。確かに昨日の自分は大人気なかった。自分の世界でないアメストリスに紛れ込んでしまった不安がどれ程のものか、自分だってよく知っているはずだ。何があっても、どうやってでも自分の世界に帰り、ハボックをもう一度この手に抱きしめるのだと固く誓っていてなお辛かったのだ。ましてや子供にとってはどれ程のことだろう。それに、ハボックがたとえそんな気はなくとも自分以外の男と二人きりでホテルにいるなんて、考えただけでも気が狂いそうで、おかげで昨夜は一睡も出来なかった。こんなに苛々するならいっそビリーを泊めてやった方がよっぽど気楽に違いない。 「私はいい大人なんだ。いちいち子供の言う事に目くじらを立てるなんてそんなみっともない事はやめなくては…」 ロイがそう呟いた時、目の前に司令室の扉が現れた。ロイはグッと拳を握り締めると言う。 「ハボックに謝って今日はあのクソガキを家に泊めてやることにしよう」 よし、と一言呟くとロイは勢いよく司令室の扉をあけた。その途端、椅子に座っているハボックに圧し掛かるようにピッタリと体をくっつけて話しているビリーの姿が目に入る。 「…っっ!!!」 ピキッとこめかみに血管を浮き上がらせて、だがロイはギリと歯を食いしばると引きつった笑みを浮かべた。 「ハボック」 「あ、大佐」 呼ばれてハボックがビリーから自分に視線を移した事にホッとする。ロイはハボックに近づくと毟り取るようにビリーを引き剥がしハボックの手を取ると話しかけた。 「昨日はすまなかった、少し大人気なかったと反省している。だから今夜は家に戻ってくれないか」 「ビリーも一緒でいいんスか?」 「勿論だ」 そう答えればハボックが嬉しそうに笑う。その笑顔にロイも笑い返すと腕を引き寄せるようにして顔を近づけた。 「ハボック…」 「たいさ…」 朱を刷いた様に染まる白い頬がかわいいと思いつつ唇を重ねようとしたその時。 ドカッッ!! ロイは背中から思い切り蹴り付けられ、ガツンと床に額を打ちつけてしまう。 「馴れ馴れしくジャンに触ってんじゃねぇよ、オジサン」 「ビリーっ!」 「きっ…貴様っ!」 蛙のように無様にも床に這いつくばってしまったロイは肩越しに声の主を睨み上げた。慌ててロイの傍に跪いて赤く腫れた額に手を伸ばすハボックを引き寄せると怒鳴る。 「なにが馴れ馴れしく触るな、だっ!ハボックは私のモノだぞっ!」 「それが馴れ馴れしいっつってんだよっ」 ビリーはそう言うとハボックの腕を掴む。グイと引き上げようとするビリーに負けまいとハボックの体を抱き寄せたロイの耳にとんでもない言葉が飛び込んできた。 「俺とジャンとはキスした仲だぜ」 「なっ…!」 フフンと笑うとビリーは驚きに緩んだ手からハボックを引き上げる。ハボックの肩を抱き寄せてロイを見ると言った。 「だから馴れ馴れしく触んな」 そう言うとビリーはハボックの肩を抱いたまま司令室を出て行く。 「ハボックっ!!」 ハッとしたロイが怒りと驚愕を載せて叫べば。 「やましい事なんてしてないっス!!」 ビリーに引き摺られるように歩きながらハボックが顔だけ振り向いて叫んで。 バタン。 その声を断ち切るように慌てて立ち上がったロイの目の前で扉が閉まる。 「こ、こ、このっ…クソガキッッ!!ハボックを返せーーッッ!!!」 ロイの罵声が司令部に空しく響き渡ったのだった。 2008/05/22 → 11 9 ← |