カストルはポルークスの夢を見るか  第五章


 結局その後、ハボックから聞いた話だけではろくな解決策など浮かんではこなかった。ハボックも全てをブレダには話せないようで、そうなるとブレダに言えることは当たり障りのないことに限られてしまう。
「とにかくその相手となるべく一緒にいてやるしかねぇんじゃないか?そりゃ四六時中一緒ってわけにはいかないだろうけど、側にいて注意を払ってる人間がいるってアピールするだけでも牽制になるだろうし」
「う……ん、そうだな……」
 果たしてそんな事で役に立つのだろうか。実際ハボックはあの時ロイの肌に残された陵辱の痕を見るまでは、そんな輩がロイの周りをうろうろしているなど気づきもしなかったのだ。
「ん、なるべく側にいて、目を離さないようにしとく」
 そう答えはしたものの、自分の力のなさを突きつけられたようで、ハボックはギュッと拳を握り締めた。

「大佐、今日は会食の後、そのまま直帰っスよね?」
 執務室のソファーで書類をチェックしていたハボックが言う。ロイは読んでいた書類から顔を上げて答えた。
「ああ、そのつもりだ。特にわざわざ戻ってやらなければならない急ぎの仕事もないしな」
「じゃあオレ、レストランの外に車止めて待ってるっスから」
 ロイの言葉にそう返すハボックをロイは驚いたように見つめる。ハボックはロイの視線を受け止めて続けた。
「こんなことでどれくらい役に立つか判んねぇっスけど、オレ、なるべくアンタの傍から離れないっスから」
「………ハボック」
 目を見開いて見つめてくるロイの唇から拒絶の言葉が零れるのを聞くのを恐れるように、ハボックは書類を纏めて立ち上がる。
「じゃ、後でまた来ます」
 それだけ言い残してハボックは足早に出ていった。ロイは暫くの間ハボックが出ていった扉を見つめていたが、やがてひとつため息をついた。
 あの日ロイを無理矢理抱いて以来ジャクリーンは姿を現さなかった。もっぱら顔を出していた作戦中にすら出てきているのはハボックの方で、腕前に変わりはないもののいつもに比べて格段に穏やかな行動に、周りの方が面食らっているほどだ。
(ジャクリーンが求めているのはなんなのだろう……)
 考えてみたものの明確な答えなど得られる筈もなく、ロイは執務室の窓から晴れ渡る空を見上げたのだった。

「そろそろ終わる頃かな……」
 ハボックは腕の時計を見て呟く。“その必要はない”と突っぱねられる事を恐れていたハボックだったが、結局ロイから拒絶の言葉を聞くことはなく、ハボックはほんの少しホッとしてロイをレストランまで送り届けた。
 ロイが出てくるまでの数時間、ハボックは煙草を吸いながら考える。あれから何度もロイにあんな事をするような人間の存在を探ってみたが、その影すら感じることはできなかった。そもそもロイ・マスタングという人間にああ言う形で危害を加えるのは難しいと思う。なんと言っても彼はアメストリス軍大佐であり、焔の錬金術師なのだ。
「くそ……一体誰なんだよ、相手は」
 そう呟いたハボックの脳裏にロイの言葉が蘇る。
『お前には関係ない』
 それはもしかしたらロイが進んで相手に身を任せているという事なのだろうか。
「そんな……」
 考えれば考えるほど思考は泥沼化していくようで、ハボックは知らず間接が白くなるほどハンドルを握り締めていた。

 会食を済ませてレストランから出てきたロイは歩み寄ってくる見慣れた姿に目を細める。近寄ってロイを見下ろすその瞳が綺麗な空色である事に、ロイは僅かに顔を綻ばせた。
「お疲れさまでした」
 ハボックはそう言ってロイを車へといざなう。後部座席の扉を開けてロイを乗せると運転席へとまわり体を滑り込ませた。いつものように車を滑らかに走らせロイの家へと向かう。車のミラー越しに後部座席へと目をやれば薄闇の中、時折差し込む外灯の灯りがロイの白い顔を浮かび上がらせた。
 特に言葉を交わすでなく、互いに物思いに沈みながら車はイーストシティの街を滑るように走っていく。繁華街を抜け住宅街に入って暫く行けば程なくロイの家に着いた。
 ハボックは車を止めてロイの為に扉を開けてやる。ロイは足を下ろして車の外に立つとハボックを見上げた。
「寄っていかないか?」
 ロイの言葉にハボックは目を見開く。あの日以来二人の間には奇妙な距離が生まれていて、二人きりで過ごす時間を持つことがなくなっていた。
「いいんスか?オレがアンタんちに入っても」
 自分以外の誰かが待っているのではないだろうか、不意にそんな考えが頭をよぎる。恐る恐る聞くハボックにロイが言った。
「変なことを言う奴だな。これまでだって来ていただろう?」
 そう言って笑うロイは以前となんら変わらないように見える。ハボックは頷いて車を裏に回すとロイの後を追って家に入った。
「お前は何か食べたのか?」
 リビングに入ってきたハボックにロイが聞く。ロイの脱いだ上着をハンガーに掛けながらハボックは答えた。
「サンドイッチ買って車の中で食いましたよ。コーヒーでも淹れましょうか?」
「ああ、頼むよ」
 そう言ってソファーに腰を下ろすロイをちらりと見て、ハボックはキッチンへと入っていく。玄関からここまでの間、ハボックはさりげなく見回した室内が以前と何ら変わらない事に内心胸をなで下ろしていた。そうして疑うつもりはなくとも、どこかでロイが他の誰かと通じているのではと思っていたことに気づいて唇を噛んだ。
(オレってサイテーだ)
 あんな風に傷つけられたロイを疑うなんて。だが、そうは思ってみても何も言ってくれないロイの態度はハボックを不安にさせる。
(でも、こうして寄っていくよう誘ってくれたし)
 少なくともそれはまだ自分の事を想っていてくれているからだろうと思えて。
「………」
 ハボックは軽く頭を振ると、コーヒーメーカーに豆をセットしカップを取り出したのだった。

 ソファーに座って本を広げていたロイは鼻孔をくすぐるコーヒーの香りに目を細める。考えてみればこうしてハボックと一緒に過ごすのは久しぶりなのだと気づいて、どれほど自分に余裕がなかったのかと苦笑した。
「どうぞ」
 足音が近づいてきたと思うと目の前にコーヒーのカップが置かれる。
「ありがとう」
 ロイは答えてカップを手に取りフウフウと息を吹きかけ口をつけた。自分の好みに淹れてくれたそれに、自然と笑みが浮かぶ。フウフウと息を吹きかけながら美味しそうにコーヒーを飲むロイの様子をハボックはじっと見つめた。その視線を感じたのかロイが落としていた視線を上げる。ハボックと目があってロイはにっこりと笑った。
「…ッ」
 人前では見せない、ハボックだけに見せるあどけない笑顔にハボックは胸が苦しくなる。向かいの席から立ち上がるとテーブルを回りロイの隣に腰を下ろした。
「ハボック?」
 小首を傾げて見上げてくるロイの手からコーヒーのカップを取り上げてテーブルに置く。不思議そうに見つめてくる黒い瞳が愛しくてたまらず、ハボックはロイを抱き締めると唇を合わせた。
「んっ……んんっ」
 突然の口づけにロイは驚いて身を捩る。細い体をきつく抱き締めて更に深く唇を合わせればコーヒーの香りがした。舌を絡め甘い口内を散々に貪る。暫くして唇を離せばロイがくたんと寄りかかってきた。
「大佐…好きッ」
 その耳元に囁いてハボックはロイをソファーに押し倒す。驚いたように見開く目元に口づけて、ハボックはロイを呼んだ。
「大佐……たいさ…」
 何度も名前を呼びながらシャツのボタンを外していく。現れた白い肌に手を這わせればロイの体が大きく揺れた。
「……嫌っスか?オレに触られるのは、もう嫌?」
 恐る恐る尋ねてくるハボックをロイはじっと見上げていたが、やがてゆっくりとハボックの首に手を伸ばす。自分から引き寄せるようにして唇を押しつけた。
「……たいさ…っ」
 柔らかい唇が離れていくのを追うようにしてハボックはもう一度口づける。それからその唇をロイの白い肌へと滑らせていった。
「んっ、アッ………ハボック…っ」
 時折走るチクンとした痛みにロイはびくびくと体を震わせる。ハボックが唇を押し当て離す度にロイの白い肌い鮮やかな花びらが浮かび上がり、ロイの体に火を灯した。
「アッ、くぅ……ん、………ああ…」
 優しい愛撫にロイは喉を仰け反らせて喘ぐ。気がつけばボトムを剥ぎ取られ、ロイはリビングの柔らかい明かりの元、下肢を大きく開かされていた。
「やっ、やだ……っ、恥ずかし…ッ」
 自分の取らされた格好にカアッと顔を赤らめてロイはハボックの腕から逃げ出そうとする。だが、ハボックはそんなロイの体を優しく抱き締めて言った。
「オレしか見てません……オレにだけ…アンタの全部見せて…?」
 耳元に囁かれる声にロイは目を瞠る。真上から見下ろしてくる真剣な空色の瞳をじっと見上げたロイは目を閉じると自分の両脚を抱えた。恥ずかしそうに頬を染めながらも、自ら脚を広げてハボックの視線にその奥を晒すロイの姿にハボックの中に愛しさがこみ上げる。ハボックは立ち上がって蜜を零す楔の先端に口づけると、双丘を割開き戦慄く蕾に舌を這わせた。
「ひっ……アッ」
 ぴちゃぴちゃと這い回る舌にロイは身を竦ませながらも脚を抱える手を離しはしなかった。ハボックはたっぷりと唾液を流し込んだそこに長い指を沈める。グチグチと掻き回せばロイの唇から甘い吐息が零れた。
「あ……ふ、ぁ…っ、ハボ…ォッ!」
 びくびくと震える体を宥めるように、ハボックは大きく開いた白い脚を撫でる。それから指を引き抜くと取り出した自身を解した蕾に押し当てた。
「たいさ………好きっス…ッ!」
 そう囁いてハボックはグイと体を進める。
「っ、ヒャアアッッ!!」
 ズブズブと押し入ってくる牡に無意識に逃げる体を引き戻して、ハボックは勢いよく腰を打ちつけた。
「たいさ……たいさ……ッ!」
「アアッ………ヒ、ぅんっ!!…アッ、ヤアアッ!!」
 狭い器官を擦り上げる熱い塊がたまらない快感を呼び起こす。ロイはあられもない声を上げながら高ぶる快感のままに熱を迸らせた。


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