カストルはポルークスの夢を見るか  第二章


「中尉、車を回すように言ってくれ」
 執務室の扉を開けてロイが言う。既に帰り支度を整えているロイの姿を見てホークアイが言った。
「お帰りですか?」
「今日の分の書類はちゃんと終わらせたよ」
 まっすぐ見つめてくる鳶色の瞳に思わず言い訳めいたことを口にして、ロイは眉を顰める。それにクスリと笑ってホークアイは受話器を取ると車の手配をした。
「お疲れさまでした」
 そう言うホークアイに軽く手を上げてロイは司令室を出ていく。玄関先につけられた車に乗り込んで司令部を後にした。
 もうすっかりと暮れてしまった街並みを車の窓から眺めながらロイは金髪の部下の事を考える。結局あの後、ハボックは戻ってこなかった。“ジャクリーン”のまま、ロイに腹を立てているのか、それとも“ハボック”として部下達と今日の行動について話し合っているのか。
 そう考えてロイはいつも思っていることを考えた。“ジャクリーン”のしでかしたことを“ハボック”はどう受け止めているのだろう。今回の事ももしあそこにいたのが“ハボック”の方だったら絶対にあり得ない行動だ。だが、中身が“ハボック”であれ“ジャクリーン”であれ東方司令部のジャン・ハボック少尉としての行動が厳として存在している以上、“ハボック”がそれを自分の行動として突きつけられる事は起こりうるわけで、そうした場合“ジャクリーン”としての行動を“ハボック”はどう受け止めているのだろう。
「────」
 そこまで考えてロイは緩く首を振った。考えたところでロイには全く想像がつかなかったし、そうと言って“ハボック”自身にその事を尋ねる事も出来なかった。
(“ジャクリーン”の存在を知ったら“ハボック”が消えてしまいそうな気がする……)
 “ジャクリーン”の存在を認識しない事で“ハボック”の存在が成り立っている、ロイにはそんな風に思えて仕方がないのだった。

 車が家の前についてロイは車から降りる。鍵を開けて中に入り灯りをつければ、何事もないのを確認した警備兵の車が走り去る音が聞こえた。廊下を抜けてリビングの扉を開けたロイはソファーに座る人影に気づく。見つめてくるアイスブルーの瞳に一つため息をついてその名を呼んだ。
「ジャクリーン」
「“ハボック”じゃなくて残念って顔っスね」
「そんな事は言ってないだろう」
 じっと見つめてくる瞳から目を逸らしてロイは言う。上着を脱いでソファーに放り投げるとキッチンへと入っていった。冷蔵庫の中からミネラルウォーターのボトルを取り出しグラスに注ぐ。一気に飲み干しシンクの中にグラスを置いた時、背後に気配を感じて振り向こうとするより早く、ロイはグラスを置いた手を背中に捻り上げられて苦痛の声を漏らした。
「……ッ、なにするんだ…っ?!」
 容赦なくギリギリと捻られてロイは呻く。ジャクリーンは片手でロイの腕をねじ上げ、もう一方の手でロイの体を抱き締めて、その耳元に囁いた。
「俺、苛々してるんスよね。昼間、あんなに頑張ったのに労いの言葉ひとつかけて貰えなくて。事件を解決したのが“ハボック”ならアンタ、めちゃくちゃ褒めてやるでしょ?アイツはアンタのお気に入りだから」
「そ、んなこと…っ」
「………気に入らねぇ」
 耳元に聞こえる声が物騒な響きを帯びるのを感じて、ロイは身を堅くする。その事に気づいたのか、ジャクリーンはロイを抱き締める腕に力を込めて囁いた。
「どいつもこいつも“ハボック”“ハボック”って。俺は“ハボック”じゃねぇ…ッ」
 ジャクリーンはそう言うなりロイの体を乱暴に反す。背中に捻り上げられていた腕が軋むように痛んで、ロイは短い悲鳴を上げた。それに構わずジャクリーンはロイの体をシンクに押しつけると噛みつくように口づける。強引に入り込んできた舌先に己のそれをきつく絡め取られて、ロイはくぐもった声を上げた。
「んっ、……んんッ!!」
 必死にもがいてジャクリーンの腕から逃げ出そうとする。強引に脚の間に入れてこようとするジャクリーンの足先を、ロイは思い切り踏みつけた。
「ッッ!!」
 思いがけない反撃と痛みに一瞬弛んだジャクリーンの腕からロイは逃げ出す。だが、数歩もいかないうちに腕を掴まれ乱暴に引き戻された。
「離せッ!」
 もがくロイの頬をジャクリーンが思い切り張る。叩きつけられるようにして倒れ込んだロイを、ジャクリーンは床に押さえつけた。
「苛々してるって言ったっしょ?昼間、血ぃ見たから興奮してんのかもしれないっスね。このまんまじゃとても眠れないんでつきあってくださいよ、大佐」
 呻くように言って見下ろしてくる獰猛な瞳にロイは目を見開いて首を振る。その表情にうっすらと笑って、ジャクリーンはロイのシャツに手をかけた。
「やめろッ!」
 ビリビリと布の裂ける音とロイの悲鳴が交錯する。現れた白い肌にジャクリーンはむしゃぶりつくように唇を寄せた。ペロリと舐めると唾液に濡れたそこに思い切り歯を立てる。
「ヒィッ!」
 首筋に走る痛みにロイが身を震わせて悲鳴を上げれば、ジャクリーンが低い笑い声を立てた。
「アンタの血、甘くて旨いっスね。いっそアンタの首、掻っ切ってやればよかった」
 そうすれば存分に味わえたのに、ジャクリーンはそう言ってくすくすと笑う。見開く黒曜石の瞳をうっとりと見つめて、ジャクリーンは白い肌に何度も歯を立てた。
「ヒッ、…痛いっ!……やめろっ、ジャクリーン、やめろッッ!!」
 痛みに耐えかねてロイが叫ぶ。だが、その声もジャクリーンを煽る役にしか立たず、ジャクリーンは白い肌を彩る胸の飾りをギリリと噛んだ。
「い、たあッッ!!」
 食いちぎられそうな痛みにロイが悲鳴を上げる。ぽろぽろと涙を零しながらそれでも抵抗を見せるロイの腕を、ジャクリーンは後ろに捻り上げて破いたシャツで縛り上げてしまった。
「ジャク……ッ」
 腕を後ろに捻られた事で、ロイの体は胸を突き出すような体勢になる。血の滲む乳首を見せつけるようなその姿勢にジャクリーンは楽しそうに言った。
「なに?もっと噛みついて欲しいんスか?アンタって変態?」
 そう言ってクスクスと笑う男をロイは睨みつける。
「馬鹿言うなっ!いい加減にしろ、ジャクリーン!腕を解け!」
 思いがけないロイの言葉にジャクリーンはムッとして顔を歪めた。裂かれたシャツで腕を後ろ手に縛られ、白い肌にいくつも血の滲む噛み痕を浮かび上がらせて、それでも尚きつく睨み上げてくる黒い瞳をジャクリーンは睨み返す。暫く無言のまま睨み合っていた二人だったが、ジャクリーンがフッと笑みを浮かべて言った。
「“ハボック”ならアンタがそう言えばすぐやめるのかもしれないっスけどね、生憎俺はアイツじゃない。その事をよっく思い知らせてあげますよ」
「……ッッ?!」
 ジャクリーンの言葉にハッとして逃げようとするロイを引き戻して、ジャクリーンはロイのボトムに手をかける。ベルトを引き抜き、ボタンを引きちぎるようにしてボトムを剥ぎ取った。
「ッ、く…ッ」
 ジャクリーンはもがくロイの白い脚を大きく開くと、まだつけたままの下着の上から中心を鷲掴む。ヒュッと息を飲んで身を強張らせるロイに薄く笑って言った。
「どうしたんスか?握り潰されるかと思った?」
 ジャクリーンはそう言いながらロイの中心を柔々と揉む。布越しの刺激にも中心は熱を帯び、零れた蜜が下着を汚した。
「くく……下着にイヤラシイ染みができてきたっスよ?こんな風にされても感じるんだ、アンタ」
「アアッ……やめ…ッ」
 ぐちぐちと濡れた下着が湿った音を立てる。その音に羞恥を駆られてロイは顔を赤らめた。熱い吐息を零すロイをじっと見下ろしていたジャクリーンだったが、突然愛撫の手に力を込める。快楽の吐息を零していた唇から悲鳴が上がるのを見て楽しそうに笑った。
「このまま握り潰しちまいましょうか……どうせアンタ、突っ込まれる方なんだから、こんなのなくてもいいっしょ?」
 ジャクリーンはそう囁いて握る手に力を込めていく。急所を握り潰される恐怖にロイは浅い呼吸を繰り返してジャクリーンを見上げた。さっきまではきつい光をたたえていた瞳が恐怖に見開かれる様にジャクリーンが笑う。
「止めないと本気で握り潰すけどいいんスか?」
 そう言って更に力が入った瞬間、ロイの唇から悲鳴が上がった。
「やめてッ!!」
 恐怖に涙を浮かべて叫ぶロイの顔を見て、ジャクリーンがゲラゲラと笑う。ハアハアと息を弾ませるロイの下着を剥ぎ取りながら言った。
「なんかさっきより濡れてるっスけど?怖くてお漏らししちゃったっスか?それとも感じちゃったわけ?」
「…ッ、……ッッ!!」
 嘲笑う言葉にロイは言い返すこともできずに唇を噛み締める。だが、次の瞬間蕾に指をねじ込まれて噛み締めた唇から悲鳴を上げた。
「ヒィッ!」
「感じちゃったんならこっちに欲しくてたまんないんでしょ?今挿れてあげるっスよ」
 ジャクリーンはそう言うと乱暴に沈めた指を掻き回す。潤いのない蕾を乱暴に掻き回されて、ロイは涙を零しながら体を震わせた。グチグチと動かしていた指を引き抜いて、ジャクリーンはロイの脚を抱え上げる。ピタリと押し当てられる熱にロイはふるふると首を振った。
「ジャク…っ、やめ……ッ」
「大好きでしょ?いっつも突っ込まれて善がってるじゃないっスか。それとも“ハボック”ならよくて俺じゃ嫌なわけ?」
「ジャクリーン……ッッ!!」
 アイスブルーの瞳に怒りとも哀しみともつかぬ色を浮かべる男の名をロイが口にした瞬間。
「ほら……好きなだけ味わいな…ッ!」
 呻くような声と共に突き立てられた熱に、ロイの唇から悲鳴が迸った。


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