第三話


 ぬぷんと己を引き抜いてロイはハボックを見下ろす。散々に犯されてハボックは涙に濡れた顔でぼんやりとロイを見上げた。
「まだ足りないようだな」
 そう言って楔を引き抜いたばかりの蕾に指を這わせる。そうすればまるで自ら喰らい込むように貪欲な唇がロイの指を飲み込んだ。
「ンッ…くぅ…」
 くちくちと掻き混ぜながらロイはハボックの体に圧し掛かりその空色の瞳を見つめる。情欲に濡れる瞳に低い声で尋ねた。
「さっき中尉が言っていた閉鎖された研究所から逃げ出した人型のキメラと言うのはお前か、ハボック?」
「……そうっス。ごめんなさい、大、さを騙すつもりじゃ…っ」
 掻き回す指に呼吸を乱しながらハボックが答える。ロイは指の動きを止めずに言った。
「詳しく話せ」
「……オレ達はグラーフ研究所ってとこで作られました。そこの研究所の、所長が錬金術師で…キメラの研究してたんス……人と犬の遺伝子弄って、人型のキメラ作ってた……」
 ロイに促されてハボックは荒い息の合間に説明を始める。濡れた空色の瞳でロイを見つめると言った。
「たいさ…指、抜いてっ、話できねぇっス…!」
 だがロイは、ハボックの言葉を無視して聞く。
「それで?お前たちは何をされてたんだ?研究対象だったんだろう?酷いことをされてたのか?」
「…ッ、……いいえ、研究の対象ではあったっスけど……酷いことされた記憶はないっス………身体能力、のチェックがほとんど……いつも施設の中で飛んだり跳ねたり…遊んでた」
 ハボックはロイが指を抜く気がないのを察して熱いため息を零した。ともすれば話をするより蕾を弄る指の方へ意識が向きそうになるのを必死に引き止めて言葉を続ける。
「研究所の中には牡ばっか、20もいたかな……みんな人型ではあったっスけど、犬に近いやつのが多かった…」
「お前は?一見人にしか見えんな」
 クチ、といやらしい音を立てながらロイが聞いた。ハボックは無意識に腰を揺らめかせながら答える。
「ジャクとオレは…研究所の中でも一番の出来だったんス…。ほぼ人型の外見で犬の長所も備えて……。発情期の時だけは犬の遺伝子が強く働いたけど…それ以外は人と変わんなかった……」
「ジャク?だれだ?」
「…オレの兄さん。ジャクとオレは同じ遺伝子から作られたんス……だから見かけもよく似てた…のんびりしてるオレに比べてジャクの方が負けん気強かったけど………ジャク…」
 ハボックの唇から切なげに自分の知らない男の名が零れるのを聞いて、ロイは唇を歪めて沈めていた指を乱暴に動かす。短い悲鳴を上げて身体を震わせるハボックの犬耳に唇を近付けると息を吹き込むようにして「続けろ」と促した。
「研究所の閉鎖が決まって、仲間が次々と殺されていったっス……オレ達もそのままだと殺されるはずだった…でも、ジャクが逃げようって…んっ、アッ……たいさ…ッ」
ハボックは甘く啼いてロイの首に手を伸ばす。引き寄せてその首元に顔を埋めて言った。
「二人で逃げたっス……幸いオレ達はほぼ完璧な人型だったから…発情期の時だけ気をつければ何とか生きていけた……」
「ジャクはどうしてるんだ?お前と一緒に住んでいるのではなさそうだが」
 付き合うようになって何度かハボックのアパートにも行った。だが、そこにハボック以外の誰かの存在は感じられず、疑問に思ってロイが聞く。ハボックは悲しそうに眉を寄せると言った。
「研究所から逃げ出して……オレ達はずっとずっと逃げ隠れする生活だった…それが嫌で、オレは軍に入ったっス……ここで上手くやってれば、もう追い掛け回されることもないだろう、…って。…でも、ジャクは……軍、嫌いだったから…オレが軍に入ったら…いなくなって…アアッ、たいさ…ッ」
 ぐちぐちと悪戯に掻き回す指にハボックは甘い悲鳴を上げてロイにしがみ付く手に力を込める。ポツリと搾り出すように呟いた。
「ジャク……どこにいるんだろう…会いたい……」
 聞き取れないほど小さな呟きは、だがロイの心に不安と嫉妬の漣を立てる。その漣が大きな波となって押し寄せるとは、その時のロイには気付く術もなかった。


2009/03/02


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