第十三話


「ジャク…ッ、なんで…?」
 幾ら扉を叩いても答えさえ返してくれない兄にハボックは呆然と呟く。叩いていた手で扉に縋りつくようにズルズルと座り込んで、ハボックは暫くの間うずくまっていたが、やがて唇を噛み締めて立ち上がった。このままではジャクはどうやっても自分をイーストシティから連れ去るだろう。同じ遺伝子を持ちながらハボックはいつだってジャクに敵わなかったし、軍に入る為に別れた後ですらジャクはハボックにとって絶対的な存在だった。これまでもこれからもジャクに逆うなどあり得ないと思っていた。だが。
「ごめん、ジャク、オレ、大佐を守りたいんだ」
 キメラである自分がロイの傍に立つことは赦されない。だがキメラ故にその力でロイを守ることは出来るだろう。ハボックは寝室の窓に歩み寄るとロックを外し窓を大きく開いた。三階にある部屋から下を見下ろし左右を見て手足をかける場所の見当をつけたハボックが、窓から抜け出そうと窓枠に足をかけた時。
「うわっ?!」
 背後から伸びてきた手がハボックの襟首を掴み思い切り引く。首を絞められるような形になって、窓枠を掴むハボックの手が緩めばそのままベッドに投げ飛ばされた。
「……ジャクっ」
 ゲホゲホと咳込みながらハボックはジャクを睨む。瓜二つの空色が互いに一歩も引かぬ意志を秘めて睨み合った。
「イーストシティを出るんだ、ジャン」
「嫌だ」
 低い声で言えば間髪入れずに返る答えにジャクはハボックに圧し掛かるようにして喉元を押さえつける。
「俺の言うことをきけ、ジャン」
「嫌だよ、こればっかりは譲れない」
「ジャンッ!」
 頑なに拒む弟にジャクはカッとなって押さえつける手に力を込めた。それでも揺るがない強い瞳にジャクは顔を歪めて尋ねる。
「俺とマスタングと、お前にとってどっちが大事なんだっ?」
 そう聞かれてハボックは躊躇いなく答えた。
「大佐。ジャクだけじゃない、オレにとって大佐はオレの命より大事だ。この世界の何より大事なんだ!」
「ジャン」
 きっぱりとそう言い切るハボックにジャクは息を飲む。ハボックは真っ直ぐに兄を見つめて言った。
「行かせて、ジャク」
 ハボックはそう言ってジャクを押し退ける。力の緩んだ手を振り払いハボックがベッドから起き上がろうとした時。
「それなら尚の事行かせない」
 囁くようにそう言ったジャクは起き上がろうとしたハボックの体を再びベッドに引き倒す。そうしてハボックが抵抗するより早く弟の両手を束ねると、引き抜いたベルトでベッドヘッドに括り付けてしまった。
「ジャク!?」
「お前は一生ここから出さない」
 驚きに見開いて見つめてくる空色を見下ろしてジャクは呟く。
「ジャク!待って!これ解いてッ!!」
 そうして必死に叫ぶ弟の声を背中で聞きながら、ジャクは寝室から出て行ったのだった。


2010/06/30


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