セレスタの涙、オニキスの誓い  第九十九章


 男の荒い息遣いと汗の匂い。乱暴に押し開かれる脚に食い込む男の指の感触。突き立てる場所を探して押しつけられる凶器が何度も蕾を掠める。圧し掛かるダグラスの顔が酷薄な笑みを浮かべるブラッドレイの顔に、ハボックをただの肉便器としか見ていなかった男達の顔に変わっていく。己の意思などお構いなしに肉棒を突き入れられ体の奥深くを蹂躙され穢される苦痛に、ハボックの心が竦み上がった。
「い、や……いやだ……」
 圧し掛かってくるダグラスの下卑た笑みを浮かべる顔をハボックは間近から見上げる。無意識に腕を伸ばし、床に流れる湯をバシャバシャと掻き毟るように掴んだ指がシャンプーのボトルに触れた。
「ヒ……ッ」
 同じ瞬間、ダグラスの固く滾ったものが蕾に押し当てられる。グッと入り込もうとする熱い塊に、ハボックは悲鳴を上げて掴んだボトルを振り回した。
「嫌だァッッ!!」
「ガッ!!」
 ガンッとシャンプーのボトルで側頭部を殴られて、ダグラスがハボックの胸に突っ伏す。押さえ込む力が弛んだ手から、ハボックは這い出すようにして逃げ出した。
「こ、の、やろう……ッッ!!」
 殴られた頭を押さえて、ダグラスが呻く。何とか立ち上がりシャワールームから逃げだそうとするハボックの姿を見て、ダグラスは頭を振って立ち上がった。
「逃がすかよッッ!!メチャクチャにしてやるッッ!!」
 怒りに顔を真っ赤に染めてダグラスが吠える。ハボックは恐怖に震える脚を叱咤してシャワールームから出ると、ポタポタと滴を垂らしたままロッカールームを抜けた。
「やだ……嫌だ……ッ」
 背後に迫る足音を聞きながらハボックはロッカールームの扉に震える手を伸ばす。扉のノブを掴み引き開けたその隙間から外へ出ようとした時、背後から伸びてきた手がハボックの肩を掴んだ。
「ヒィッッ!!」
「逃がさねぇよッッ!!」
 ダグラスは掴んだハボックの腕を力任せに引っ張る。背後に倒れ込みそうになったハボックは咄嗟に伸ばした手で扉の縁を掴んだ。
「やだ……ッッ」
「このッッ!!」
 引き倒せると思ったハボックに抵抗されて、ダグラスは扉を掴むハボックの腕を上から思い切り拳で殴る。殴られた痛みに扉を掴む手が弛み、ハボックはロッカールームの床に引き倒された。
「あっ!」
 ダグラスは半分開いた扉を蹴り閉めると手を伸ばして鍵を回す。倒れ込んだハボックが何とか逃げようとして四つん這いになったところに背後から圧し掛かった。
「往生際が悪いぜ、ハボック」
「嫌だッ、離せッッ!!」
「よくも殴ってくれたな……あんな事してどうなるか、思い知らせてやるからな」
 ダグラスは耳元に低く囁く。ハボックの腰を抱え込むと双丘の狭間で戦慄く蕾に、ガチガチに張り詰めた赤黒く光る牡を押しつけた。
「お前の大好物だぜ……しっかり味わえよ」
 ダグラスは低く囁くと同時にグッと腰を突き出す。小さな蕾が強引に押し開かれる感触に、ハボックは空色の瞳を大きく見開いた。


 ロイは射撃場に一番近いロッカールームの扉をバンッと叩き開ける。中に誰もいないのを見て、クソッと低く吐き捨てすぐさま廊下に飛び出した。
「あっちか!」
 己の勘の悪さにロイは歯噛みして廊下を駆ける。途中開いた扉から誰が出てくる寸前に駆け抜ければ、「うわっ」という声に続いて驚いたようにロイを呼ぶ声がした。
「マスタング大佐っ?」
 だが、ロイは足を止めるどころか振り向きもせず駆けていく。するとロイを追ってきた足音と共に声が聞こえた。
「どうしました?大佐」
「────ブラウン」
 チラリと背後を振り向くロイのただならぬ様子に、ブラウンは僅かに目を見開く。
「ハボックになにかありましたか?」
 この上官がこんな風に血相を変えるなどハボック絡み以外にあり得ない。そう思いながら後を追って駆けていけば、ロイがロッカールームの前で足を止めた。ロイの手がノブを掴んで回したが中からロックしてあるらしく、ガチャッと鍵が引っかかる音がする。
「今鍵を」
 と、鍵を取りに行こうとしたブラウンの耳にボンッと低く弾ける音が聞こえた。驚いて振り向けば発火布を填めたロイが壊れたノブを投げ捨てるのを見て、ブラウンは目を見開く。だが、ロイが叩き開けた扉の中で繰り広げられていた光景に、ブラウンは更に大きく目を瞠った。


「い、や……、あ……」
 ググッと熱く巨大な塊が身の内に入り込んでくる。忘れたくて決して忘れることの出来ないそのおぞましい感触に、ハボックは喉をせり上がってくる吐き気で床に胃液混じりの唾を吐き出した。
「助け……────た……さ」
 恐怖と絶望で溢れてくる涙で床につく己の手が霞んだ、その時。
 ボンッと低く弾ける音に続いて扉が叩き開けられる。驚いたダグラスが振り向くより早く伸びてきた手がダグラスをハボックから引き剥がし、潜り込んできていた凶器がハボックの躯から抜け出た。
「ダグラス?!────ハボック!」
 誰かが叫ぶ声がして、ハボックは肩に触れてきた手を悲鳴を上げて振り払う。尻で(いざ)るように逃げながら振り向けば、驚きに目を見開くブラウンとその向こうにロイの姿が見えた。
「こ、の……下衆がッッ!!」
 低く呻いたロイが発火布を填めた指をすり合わせる。指先から迸った焔に開いた脚の間、イチモツを掠めるようにして床を焼かれてダグラスは悲鳴を上げた。
「ヒィィッッ!!」
「二度と妙な気を起こせんようにしてやる……ッ」
「マスタング大佐ッ!」
 もう一度指をすり合わせようとするロイの腕をブラウンが掴む。
「いけません、騒ぎを起こさないでッ」
 間近からロイの黒曜石を見つめてキツくブラウンは言うと、開いたままだった扉を急いで閉めた。
「その馬鹿者は私が処分を下します。大佐は誰か来る前にハボックを連れて行って下さい」
 ブラウンの言葉にロイは開きかけた口を閉じて振り向く。床に座り込んで大きく見開いた瞳で見上げてくるハボックの側に跪いて言った。
「大丈夫か?ハボック」
 言って頬に手を伸ばせばハボックがヒッと喉を鳴らして身を仰け反らせる。そのまま背後の壁に頭を打ちつけそうになるのを、ロイが咄嗟に伸ばした手を頭と壁の間に挟んだ。
「マスタング大佐、早く!」
 扉の壊れる音は決して小さくはなく、終業時間後の人が減っている時間とは言え誰かが様子を見に来るのは必至だ。ブラウンの声に頷いて、ロイはハボックの腕を掴んでその身を引き起こした。
「すぐ服を着ろ。出来るな、ハボック」
 ロイは言ってハボックをロッカーの近くへ引っ張っていく。十数秒ほど動けずにいたハボックだったが、ロイが次の言葉をかける前にロッカーを開け軍服を身につけた。
「行くぞ、ハボック」
 無言のまま見つめてくるハボックに頷いてロイはハボックの手を引くと、ノブの壊れた扉から廊下に出て足早にその場を後にした。


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