セレスタの涙、オニキスの誓い  第九十八話


 ザアザアと出しっ放しのシャワーから湯が流れる音がする。流れる湯で濡れた床に押さえ込まれたハボックは何とか逃れようと必死に身を捩った。だが、大きく開かれた片脚を膝で押さえ込まれ急所を握られていては思うように動くことも出来ない。その上、奥まった蕾を撫でていた指先がクッと中に潜り込んできて、ハボックは短い悲鳴を上げた。
「嫌だッ!やだァッ!」
「なんでだよ?今更だろ?閣下に突っ込まれて善がりまくってたくせに。閣下に捨てられてからは他のヤツにヤらせてたんだろ?」
 ダグラスは蕾の浅い部分をクチクチと掻き回しながら言う。
「そういやお前、アエルゴに行ってたよな?そこでも男咥え込んでたんじゃねぇの?」
「ッ!」
 ダグラスの言葉にハボックがビクリと躯を震わせ目を見開く。その様子を見て、ダグラスはニヤリと笑った。
「やっぱりな。戦場なんてのは飢えた男どもばっかりだ。お前みたいの、真っ先に目ぇつけられるだろうからな」
「…………」
 ダグラスは楽しそうに言ってハボックの顔に己のそれを寄せる。見開く空色を間近から覗き込んでダグラスは囁いた。
「一晩で何人の相手してたんだ?どうせ一人じゃないんだろう?もしかしていっぺんに何人ものブツを咥えてたのか?」
「ッ!」
 半分は冗談で口にした言葉にハボックが息を飲むのを見て、ダグラスはクッと笑う。
「マジかよ。もしかして口に一本、尻に二本とか……図星かよッ!すげぇなッッ!!」
 ハボックの反応で己の言葉の正しさを確信してダグラスはゲラゲラと笑った。
「とんでもない淫乱だな!マスタング大佐は知ってんのか?お前が前線で銃じゃなくて男のブツを手に取ってたって。まあ、ある意味それも立派なオシゴトだけどな」
 笑いすぎてヒィヒィと喉を鳴らしながらダグラスは言う。
「今更銃の腕前なんて鍛えなくてもいいんじゃねぇの?それよりもマスタング大佐がいつでもヌけるようにケツの孔鍛えとけよ。その方がずっと役に立つぜ、この淫乱!」
「────」
 空色の瞳を大きく見開いて、返す言葉もないままに見上げてくる空色にダグラスはクツクツと笑った。
「そうとなりゃ俺が手伝ってやるよ。突っ込んでやるからケツ振って俺を悦ばせてみな?マスタングを悦ばす練習させてやる、感謝しな」
 ダグラスはそう言うなり浅いところを掻き回していた指をグイと突き挿れる。根元まで押し込んだ指で熱い内壁をグリグリと掻き回せばハボックがくぐもった悲鳴を上げた。
「やめ……ッ!くァ……ッ!!」
「狭いな……本当にここに二本も咥えてたのか?信じらんねぇな」
 まだ指一本しか入れていないというのに、熱い内壁が絡み付き締め付けてくる。この狭い器官にどうやって男のイチモツを二本も咥えていたのか、ダグラスは興味を駆られると共にこの熱い肉襞を己のモノでも感じたくて堪らなくなった。
「挿れてやるよ……マスタングのモノだと思ってしっかり咥えな」
 低く囁いてダグラスは蕾を掻き回していた指を乱暴に引き抜く。すっかりと興奮して高々とそそり立った牡を、慣らすように数度手で扱くとハボックの脚をグイと押し開いた。


「ハボック!」
 司令室を飛び出した勢いのままロイは廊下を駆けていく。今現在のハボックの直属の上司であるブラウンの部屋へ行くとノックもなしに扉を叩き開けた。
「ブラウン中佐ッ、ハボックは今────」
 どこにいると所在を尋ねる言葉は、だが受け取る者がいない部屋の中で途切れて消える。ハッハッと短く息を弾ませて部屋の中を一通り見回したロイは、そこに誰もいないとみると即座に部屋を飛び出した。
「くそッ、どこに……ッ?!」
 ロイは廊下の左右を見ると右手に伸びる廊下を駆けていく。闘技場を覗き射撃場に飛び込んでどこにもハボックの姿を見つけられずにいれば、ロイの中に焦りとも恐れともつかぬものが急速に膨れ上がっていった。
『その頑張りが余計な災難を招かんよう、気をつけてやることだ』
 面白がるようなブラッドレイの声がロイの脳裏に鳴り響く。それと同時に照れたように笑うハボックの顔が思い浮かんだ。
『技術の方はまだ全然……悔しいっスけど』
『でも、ちゃんと最後までついていけるようになったから、これからは前に覚えたこと出来るように訓練頑張ろうって……』
 己のいたらなさ故深くふかく傷つけてしまったハボックを漸くこの手に取り戻した。取り戻した当初は心と体のバランスが取れず苦しんでいたハボックが、ここへきてやっと笑顔を見せるまでになったというのに。
(また傷つけてしまったら)
 今度こそハボックの心は粉々に砕けてしまうかもしれない。
「────ッッ!!」
 ゾクリと背筋を震わせてロイは手を握り締める。とにかく一刻も早くハボックを見つけなければと歩きだそうとしたロイは、丁度開いた扉から出てきた尉官と鉢合わせしそうになった。
「あっ、失礼しました、サー!」
 ロイとぶつかりそうになった尉官は相手がロイだと判るとピッと敬礼して寄越す。その顔を見たロイは、それがハボックと一緒に射撃大会に出場した男だと気づいた。
「貴官は確か……グラント少尉」
「あ、はいっ、覚えていて頂き光栄です、サー」
 まさかロイが名前を覚えていてくれているとは思わず、グラントは恐縮しきって言う。だが、ロイはそんなグラントの様子になど気づかず、グラントに詰め寄るようにして言った。
「ハボックを、ハボックを見なかったかッ?」
「えっ?────あ、はい。ハボックなら少し前に廊下で」
「どこへ行ったッ?!」
 もの凄い剣幕で尋ねられて、グラントは目を大きく見開く。パチパチと数度瞬きして、グラントは答えた。
「アイツなら訓練終えて今あがるところだって……多分ロッカールームだと思いますけど」
「ロッカールーム……ッ」
 ロイは呻くようにそう繰り返すとグラントを突き放すようにして駆け出す。
「マスタング大佐?」
 もの凄い勢いではロッカールームへと駆けていくロイの背を、グラントは訳が判らず呆然と見送った。


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