セレスタの涙、オニキスの誓い  第五十二章


「え?アイツ、そんなところに配属先の希望出したのか?」
 結局ホークアイにそれ以上尋ねることも出来ないまま数日が過ぎ、たまたま見かけたグラントに同じ隊だったハボックの配属先を尋ねたブレダは返ってきた答えに目を瞠る。それに頷いてグラントは言った。
「ああ、俺たちもびっくりでさ。ハボックはてっきり大総統のところかマスタング大佐のところだとばかり思ってたからさ」
「俺は大佐のところだとばかり……。ここへ来ればまた一緒にやっていけると思ってたんだ」
 わざわざ確かめなくともハボックなら絶対にロイのところへ配属先の希望を出すのだと思っていた。耳に胼胝ができるほどロイの話を聞かされて、自分もロイの元なら面白い経験が出来そうだと思ったから司令室への配属希望を出した。だが、自分にそう思わせたハボックがロイの元ではなく選りに選ってアエルゴに配属を希望するとは。
「一体どうしてそんなところに行くことにしたんだ?何か思い当たること、ないか?」
「いや、全然」
 ブレダに聞かれてグラントは困ったように首を振る。
「そりゃハボックは新兵の中じゃ腕も立つし射撃大会での実績もある。でも、やっぱり実戦は違うし、いきなり最前線にいかなくても」
「やっぱり何かあったとしか思えねぇ。何でもいい、何か聞いてないのか?」
「そんなこと言われても……」
 本当に思い当たるところがないのだろう。グラントは心底困ったように眉を寄せて首を傾げる。そんなグラントにブレダが何か言おうとした時呼ぶ声がして、グラントはすまないと言いつつも話を打ち切って行ってしまった。
「なんでアエルゴなんかに……」
 最後にハボックと話したのはいつのことだったろう。お互い訓練を頑張って実力をつけて、次は大佐のところで会おう、そんなことを話した気がする。
「くそっ、ちゃんと連絡取っておくんだった」
 会えることを疑わなかったから慌てて連絡をとろうとも思わなかった。
「なんでだ?あんなに大佐のとこに行くって、大佐の力になりたいんだって言ってたじゃないか」
 そう考えながら浮かぶのはハボックの笑顔ばかりだ。
『ブレダ、大佐ってすげぇ人なんだ。オレ、訓練終わったら大佐の為に頑張りたい。その為に軍に入った気がするんだ』
 東方司令部に来たばかりの頃そう言っていたことが思い浮かぶ。そんなハボックが今、アエルゴとの国境地帯にいるなんて、とても信じられない。
「ハボック、何でだよ」
 脳裏に浮かぶ笑顔に問いかけても答えは返ってこない。ブレダは深いため息をつくと司令室へと戻っていった。


 ハボックは装備を外すとホッと息を吐き出す。星の出始めた空を見上げれば遠く微かに銃声が聞こえたが、今夜は概ね平穏に過ぎ去りそうな気配だった。
 アエルゴへの配属希望を出すとブラウンの言うとおりすぐさま希望は通った。仲間への挨拶もそこそこにまるで家畜のように狭い貨車に大勢の兵士と共に詰め込まれたハボックは国境近くの町に運ばれ、そこから徒歩で二日がかりで最前線へと入った。それからはただアメストリスの国境線を少しでも減らそうとする敵を追い払い、押し返す日々。硝煙と土埃に塗れながら目の前の敵を撃ち殺し、そしていつか己の命がこの空の元に砕け散り吸い込まれ大地の一部と化して、ロイが導くこの国の礎になることがハボックの望みでありハボックを動かす力となっていた。
 そして────夜。
「よお」
 地べたに座り込んでいたハボックは射した影に俯けていた顔を上げる。そうすれば兵士が三人、下卑た笑みを浮かべてハボックを見下ろしていた。
「来いよ、ハボック」
 黒髪を短く借り上げた男はそう言うとハボックの腕を掴む。乱暴に引き上げハボックを立たせるとテントの脇の暗がりへと連れ込んだ。
「あっ」
 ドンと突き飛ばされてハボックは地面に倒れ込む。振り返る間も与えずハボックに手を伸ばして軍服を毟りとると、男たちはハボックに圧し掛かっていった。


「────ヒ……ッ、アアッ!!」
お ざなりに解した蕾に男のイチモツが押し入ってくる。ハボックの長い脚を胸につくほど押し上げて己をねじ込んだ男は、息を荒げながら言った。
「は……相変わらずイイ締まり具合だぜ、ハボック」
「アッ、ヒアアッッ!!」
 言うと同時にガツンと突き上げられてハボックの唇から甘い悲鳴が上がる。男はガツガツと好き勝手にハボックを攻め立てるとブルリと体を震わせハボックの中に大量の熱を叩きつけた。
「あ……くぅ……ッ」
 身の内を焼く熱にハボックは大きく目を見開く。ズルリと太い凶器が引きずり出されホッと息をつく間もなく、別の男がハボックの中に押し入ってきた。
「くはァ……堪んねぇ……ッ」
 男は感じ入ったため息をつくとハボックの腿に手を当て押し開くようにしてハボックを突き上げる。ハアハアと鼻息も荒く腰を振り立てる男に躯の奥底を犯されながら、ハボックはぼんやりと空を見上げていた。
(星……凄いな、降ってきそうだ)
 街中よりもずっと星の多い空を見上げてハボックは思う。その夜空をスッと星が流れるのを見ればハボックの脳裏にいつかロイと見上げた星空が浮かんだ。
(あの時も星が流れたっけ)
 あれは、そう。ロイとただ一度交わしたキスの後のことだ。帰り難くて一緒に見上げていた空を星が流れた。

『あ、流れ星!うわ、願い事、間に合わねぇっ』
 夜空を指さしてそんなことを言ったハボックを見てロイはクスクスと笑う。
『なにを願うつもりだったんだ?』
『え?あー、まあ色々と』
『色々となんだ?はっきり言え』
 言葉を濁して誤魔化そうとしたものの強い光を放つ黒曜石に間近から迫られて、ハボックはもごもごと答えた。
『大佐の力になれますように……。訓練終えて力付けて、大佐の為に大佐の役に立てますようにって』
『そんなこと、星に願うほどのことでもないだろう?お前の実力な造作もないだろうが』
 ハボックの願い事を聞いてロイが呆れたように言う。それにハボックは照れたように笑って答えた。
『でもオレ、本当に大佐の為に頑張りたいんスもん』
 そう言えばロイの手が伸びてハボックの髪をくしゃりと掻き混ぜる。見つめてくる黒曜石を見つめ返してハボックは尋ねた。
『そう言う大佐は……あ、大佐こそ星に願い事なんてしないか』
 ロイなら星に願うどころか星すら自分に従えてしまうに違いない。だが、ロイは小首を傾げて少し考えると答えた。
『そうだな、ずっとお前といられるように。ハボック、なにがあっても私から離れるな、どこまでも私についてこい』
『それこそ星に願う必要ないっスよ』
 自分がロイから離れる事などあり得ない。命の続く限りロイの側でロイのために力を振るうことが一番の望みなのだから。
『オレ、大佐の為に頑張りますから。もう少しだけ待ってて下さい』
『ああ。早く私のところへ来い、ハボック』
 ハボックの言葉にロイが優しく目を細めて頷いた。


(あの時、星に願ってたら叶ったのかな)
 ハボックは入れかわり立ちかわり犯してくる男たちに躯を揺さぶられながら思う。
(あの時、星に願ってたら)
 もしまだ間に合うならと空に向かって手を伸ばしかけたハボックの躯を、男の一人が乱暴に反した。四つに這わせたハボックの腰を引き上げ一気に貫く。
「アアアッッ!!」
 ズブズブと押し入ってくる熱にハボックは地面を掻き毟り背を仰け反らせた。悲鳴を上げる唇に正面に回った別の男が猛る楔をねじ込む。上と下、二つの口を同時に犯されるハボックの瞳に、もう星空は見えなかった。


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